前略、今は空高い場所で私を見守っているだろうお父様、お母様。
そして里を逃げ出し抜け忍となったため、私はおろか師匠、親友、許婚など里に住まうありとあらゆる忍から追い掛け回され、命を狙われているであろうお兄様、いかがお過ごしでしょうか?
私こと琴羽(ことは)は元気です。
この里で暮らすくノ一となって早数年、何とか任務もこなせるようになってきました。
なのですが……
「……やだ、なにこれ」
なんだか空も飛べそうも無い小さなこうもりっぽい羽となんか変な尻尾が生えました。
……もう一度言わせていただきます。
「……なにこれ」
いつもどおりの朝を迎えたはずだった。
しかし朝起きて、何やら腰あたりから激しい違和感を感じたため、とりあえず自分の体を見下ろしたところでこれだ。
そんな感じで、いつもどおりに晴れ渡った空の下、しかし私はいつもとは違う朝を迎えたのだった。
これどうしようかと悩みに悩みぬき、結局うまい具合な方法が思い浮かばない。
たぶんお兄様なら「こいつぁどうしようもねぇな、はっはっは!」と笑い飛ばしてしまうのだろうが、あいにく私は笑って誤魔化せるとは思っていないのでとりあえず引きこもることにする。
幸い、今日は私は任務は無いし、基本私は暇なときは家に引きこもっているので誰も不審がら無いだろう。
……こういうと、私が引きこもりみたいだなぁ。
まぁ間違ってないけど。
抜け忍の妹と言うことで、里の人が私を見る目は非常に厳しいものだ。
『あいつもいつか里を抜け出すのではないか?』
私に向けられている目はそんな心の内をありありと語っているのだ。
そんな目を向けられるのは非常につらいものがある。
その原因が身内と言うことで、つらさは倍ドン。
そしてそんな苦しみを打ち明ける身内も既にいないのでさらに倍々でつらい。
そして一番つらいのが身内の恥は身内がそそげといわんばかりに私に下される任務だ。
『抜け忍となった斎賀を抹殺せよ』
現在、私は普通の任務を下されることはほぼ無い。
唯一下される任務が自らの兄を殺すことと言うものだ。
現在は兄の行方が分からなくなったため任務が下されることの無い、暇な毎日を過ごしているというわけ。
大好きなお兄様を殺すのはつらい。
でも殺さなければ私の居場所がなくなってしまう。
その板ばさみの苦しみに耐えながらも、私は今日も過ごしている。
※ ※ ※
「……こういうときに限って」
さて、早速いつものように引きこもり生活を始めようと思ったのだが、保存庫を空けたらあらびっくり、食材が待ったく無い。
そういえば、前に食材を買い込んだのが先週の頭だったっけ……それは食材も尽きるというものだ。
でも、この格好で出るの? 外に?
「……勘弁してよ、もう」
出たくない、非常に出たくない。
でも出ないと飢え死んでしまう。
究極の選択を前に、私は悩みに悩みぬき……
くきゅう……
……空腹には勝てなかったよ。
はぁ、出るしかないかぁ。
私は箪笥の中から比較的ゆったりとしていてこの羽と尻尾を隠せそうな普段着を身につけ、着込む。
うん、ちゃんと隠れてる。
しっかりと異常な部分を隠せたことを確認すると、私は訓練で身に着けた気配を消す術などを無駄に活用して家を出た。
※ ※ ※
私が住んでいる忍の里は本当に山奥にある。
猟師でさえここまでは踏み入らないだろうと言うくらい山奥の奥にある。
つまり逆を返せば任務以外で里から遠くに出ようとする忍もいない訳で、そうなると生活の全てを里で完結させなければならない。
よって食料や雑貨など、それらは全て里の中で手に入れることが出来る。
任務を任せられるほど優秀ではなく、かといって忍としてまったく不出来と言うわけでもないという者が、主に山に入って鹿や熊、猪を狩ったり、里の中に畑を作ったりなどしてと言う風に、所謂調達係としてそれらの生活必需品を販売している。
里の市場とでも言うべきそこは、やはり人であふれていた。
朝餉の食材を買いに来たもの、雑貨を買い足しにきたものなどで市場はにぎわっている。
にぎわっているのだが……
「なんか……私に似てる人がいっぱいいる」
別に私とおんなじ顔した人がいるということではない。
何と言うか、格好が同じなのだ。
私が見る限り、10人中10人が私と同じように、やけにゆったりめの服を着ている。
正確に言えば、私が見かけたくノ一が全員そんな服装なのだ。
男はいつもどおり。
はてさてこれはいったいどういうことなのやら。
それともう一つ気になる点があって……
「あれ? 琴羽じゃん。やっほ」
そういいながら私に声をかけてきたのはこの里で珍しい、私を冷たい目で見ないくノ一、名前は杏(あんず)。
彼女もやはりゆったりとした服装をしており、そしてや
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