さんっ!:お向かいさんは元上司!?

今日、お向かいに引っ越してくる人がいるらしい。
いったい誰なんだろ……って、あああああああ!?




「んー……ふぁあああ。……うむ、よく吸った」

今日も元気だ精がいっぱいってところかな?
昨夜は、とてもお楽しみました。
まぁ、代償として……

「ぐぉおおおおおお……た、太陽が黄色い……」

旦那がノックダウンしちゃったけど。
……ま、必要な犠牲ってことで。

「は、薄情もの……」
「あはは……さすがにヤりすぎた。反省はしてる、後悔はしてない」

だってそれがダークエンジェルってものだから。

「ま、ゆっくり休んでてよ。朝ごはん作ってくるからさ。終わったら腰痛薬持ってくるし」
「じゃ、よろしく……おごごごごご……」

そうやってうなっている旦那に、やや嗜虐心がくすぐられながらも、断腸の思いでそれを振り払い、
私は朝食の準備に向かった。

冒険者としてそこそこ高名だから、、肉体的にはずいぶん強靭だと思うんだけどなぁ……
野山や遺跡を駆け回るのと、ベッドで寝技じゃ、使う筋肉ちがうのかなぁ。
はぁ、早く旦那がインキュバスにならないかなぁ。




「ふぃ〜、ごっそさん」
「はいはい、お粗末様でした」

あれから朝食の準備が終わり、旦那に腰痛薬を持っていった。
それを飲んで、旦那が動けるくらいまでには回復したので、朝食を取って、今は食後のお茶の時間。
紅茶は元から淹れるのは得意なのです。

今日は旦那も冒険はお休み。
夫婦のまったりとした、平和な時間。

「……そういえば、外騒がしいね」

ふと気がついた。なにやら外が騒がしい。
しかし、事件があった的な騒がしさではなく、なんと言うか……ああ、工事中のあれに近い。
なんていうか、作業員の怒号?

「んー、何でもお向かいさんができるらしい。前から空き家だったけど、そこに引越ししてくる人がいるんだと」
「へぇ、つまりこれはアント引越しセンターの人たちの声かな?」
「だろうな」

しかし、お向かいさんかぁ……
仲良くなれるといいなぁ……

ピンポーン

「お?来客か?」
「私が言ってくるよ、まだ腰痛いでしょ?」
「あー、そうだな、頼む」
「はいはーい」

パタパタと玄関へ向かい、扉を開ける。

「はい、どちらさまで……」
「あ、どうもはじめまして。私たち、この家の向かいに引っ越してきた者ですが」
「これ、引越しの挨拶の品です」

そういってこちらに引越し蕎麦を渡してくる。
確かジパングの風習だったかな?これ。
しかし、そんなことはどうでもいい。私はある事実のせいで身動きがとれずにいた。

「?あの、どうかなさいましたか……?」
「な、なななななな……」

いやさ、驚くのも無理ないと思うんだよ。うん。
だって、だってだよ?
こうして玄関で私と向かい合ってる夫婦。
旦那さんのほうはいいんだよ、でも、奥さんのほうは……

「ファ……ファリ姉さ……ん?」
「へ?どうしてあなたがその呼び方を……?」
「……なんでじゃああああああああああああああああああああ!!!!?」

奥さんのほうは、あのファリ姉さんだったんだから!!




「……と、言うわけで、私の元上司のファリエルさん。私はファリ姉さんって呼んでた。ファリ姉さん、こっちが私の旦那さん」
「はじめまして、ファリエルと申します。あ、こちらは私の旦那です」
「はじめまして」
「こちらこそ、はじめまして……しかし、まさか引っ越してきたのが俺の嫁さんの元上司とその旦那さん夫婦だったとはなぁ……」
「僕もですよ。まさかこの子の元部下とその旦那さんの夫婦だなんて。世界は狭いというか、なんと言うかですよ」

あれから、とりあえず玄関先で話すのもあれなので、私の叫び声に駆けつけてくれた旦那の提案でこうやって二人を招いていろいろ話していた。
どうせファリ姉さんたちは引越しの作業が終わるまで新居には入れないんだし、ちょうどいいよね?
ちなみに手伝わなくていいのかと聞いたところ、手伝ったほうが逆に時間がかかりそうと言われたとの事。
ふむ、やはりジャイアントアントはこういった労働のプロだね。
アント引越しセンターの社長さんは事業の広げ方が上手上手。

「しかし、まさかあの厳格を天使型に鋳造したようなファリ姉さんが堕天してるなんてなぁ……驚きだよ」
「やだもう!昔のことをあまり思い出させないでよ。……無知だったのよ、私も」

そういって遠い目をするファリ姉さん。
その横顔は、女の私から見てもドキッとするほど、哀愁に満ちたというか、ほっとけないというか、
そんな悲しく笑っている顔だった。

「主神の言いつけが唯一絶対と信じて、常に厳格であれ、清廉であれ。今思えば、なんとも味気ない、つまらない生き方よね……堕天したあなたなら分かるでしょ?」
「まぁ……よく分かりますね、
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