今から大体……どれくらいだったかな?
まぁ、んなこたどうでもいい。
とにかく、昔のことだ。
で、いきなりで悪いが……
そのとき、私は負けた。
いや、正確には引き分けだったのかもしれないな。
でも、私はあの勝負は負けたと思ってる。
なんせ、こっちがへろへろで立てなかったのに、あいつは平然と立って、スタスタと立ち去っちまったからな。
ほんとにいきなりすぎて悪いな。
つまり何が言いたいかってぇと……私はそのときの男を捜してる。
なんでかって?決まってるだろう?
「あいつを私のツガイにするために決まってるだろうが!」
とある貿易都市。
海に面し、大きな港を持つその街は、貿易都市の名のとおり、貿易によってここまで発展してきた。
そして、発展した街には多くのものが集まってくる。
それは、あらゆる物品であったり、あらゆる職種の人であったり、そんな人たちを狙う魔物であったり。
他には……いろんな情報、とかさ。
「……つーわけだ、コイツを見たことはあるかい?おっさん」
「んー……ワリィな嬢ちゃん。見たことも聞いたこともねぇや。こんだけ目立つナリしてりゃ、目立つと思うんだけどな……」
「そうかい……酒飲みの邪魔しちまったな。じゃあな」
「おう」
そういうわけで私はその街で情報を探している。
それはある人物についての情報。
しかし、進展は思ったように無く、こうして酒場での情報収集も無駄足だったってわけだ。
「たくよぉ、どこに行っちまったんだよ、コイツは」
そういいながら、自分の手のひらの上にある水晶から映し出される映像を見やる。
パッと見、これといって特徴の無い、強いて言うなら長身がやや目立つか?と言った風貌の男。
しかしよく見ると、その顔の右頬に刻まれた十字の傷が異様な存在感を放っていることが分かるだろう。
名前は知らない。どこの生まれかも知らない。
ただ分かるのが、コイツは風みたいな奴だ、と言うこと。
私と出会ったときだってそうだった。
風のようにフラリと現れ、そして戦いが終わったら風のようにフラリと去っていく。
今でも昨日のように思い出すことができる、あの太刀筋。
それは魔物の中でも武闘派に区分されるであろう私のような奴でも、一瞬の恐怖を感じてしまうほど美しい、冴え渡った一筋の光。
それを思い出すたび、私の胸の奥は熱くなり、私の尻尾の炎も燃え滾るってモンだ。
「……とと、やばいやばい、街中で燃やすわけにはいかんだろう」
しかし、はたと冷静になりあわてて心を落ち着かせる。
と言っても、日に日に勢いを増す炎を鎮めることは並大抵のことではないが。
それでも、下手なことして牢屋にポイッとされてしまえば目も当てられない。
根性で何とか鎮めることに成功した。
「ふぅ……早く会いたいな……」
長いこと胸の奥にくすぶり続ける炎は日に日に勢いを増していく。
はぁ……このままじゃ根性で抑えてられるのも時間の問題だぞ……
そうため息をつく。
まったく、サラマンダーなんて魔物に生まれちまうと、どうにもこういうところが不便でしょうがないね。
「……ん?なんか騒がしいな」
と、そこでなにやら広場のほうが騒がしいことに気がつく。
「……何かあるのか?祭りごととか」
もちろんそんなわけは無いのだが、何があったのか気になるのは事実なので、人の流れに逆らわず騒がしい方へといってみる。
「ん?あー……喧嘩か?こんな真昼間から」
広場にできた人だかりを掻き分け、時には邪魔な奴を尻尾の一撃でぶっ飛ばしながらなんとか人だかりの最前列にたどり着くと、そこには向かい合った二人の人間と、
片方の人間の背中に隠れるようにしているホブゴブリンだった。
背中にホブゴブリンを隠した人間は全身を黒いローブで覆い隠しており、顔も同じ色のフードで覆っているため、性別や体型などが一切分からない。
かたや、その人間と向かい合っているのはいかにも街のチンピラといった感じの男。
正直、こういう馬鹿丸出しがかっこいいと勘違いしてる奴趣味じゃないな。
ここからじゃ聞こえないが、なにやらチンピラの方が何かを叫んでいるようだ。
しかし、ローブの人物はそれを一切合切無視。
その態度に我慢がならなかったのか、チンピラはローブの人間に向かって突進していく。その手にはナイフが握られていた。
小さいものだが、人を殺めるのには十分すぎる得物だ。
しかし、如何せん街のチンピラ。
その扱いは粗雑そのもの。
現に、チンピラの攻撃はローブの人間にヒラリヒラリとかわされ、空を切る。
しかも、ローブの人間は背後にホブゴブリンをかばいながらというハンデがある。
それでいて、かわし、時にいなしてホブゴブリンに被害が及ばないようにもしている。
「……あいつ、できるな。只者じゃあない」
業を煮や
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想