ダンッ!ダンッ!ダンッ!
つい先ほどまで無音だった空間に、大きな音が響く。
しかも、それが一度や二度ではなく、何度も繰り返し響いている。
「これも違う……これも違う!何故じゃ!何故見つからんのだ!?」
「ちょっ!?バフォ様落ち着いてください!!」
「これが落ち着いていられるか!」
そこはとある場所にひそかに作られたサバト。
その中の書庫だ。
その中で、このサバトの主であるアリアは悔しそうに机を何度も殴打した。
「これでは……っ!これではあやつを救うすべが無いではないか!!」
「だから落ち着いてくださいバフォ様!そんなに荒れていては見つかるものも見つかりませんよ!!」
彼女が焦り、あわてている理由。
それは影繰、キト・ラファエーラのことだった。
「……もう!こんなに手を傷だらけにして……あと少し止めるのが遅れたら手の骨折れてましたよ?」
「……すまぬ」
あれから数分後、妾は魔女の一人から手当てを受けていた。
理由は物を殴打しすぎたことによる拳の怪我。
幸い、それほど重症ではないものの、手からは血が流れ出て、その血が腕や服を赤く染めていた。
「はい、もう大丈夫ですよ。……もう物を思いっきり殴らないでくださいね?」
「うむ、分かった……」
「……影繰さんのこと、気になるんですか?」
「……そうだな、『アレ』を見てしまったからには……気にしないでおく、なんてことはできんよ」
そういうと、傍においてあった書物を手繰り寄せ、開く。
さっと内容を確認し、しかし、望む情報が書いてないと分かるとそれを放り投げる。
「……何なのだ?『アレ』は……」
妾が先ほどから言っている『アレ』とは、あの日、影繰をこのサバトに招待した日に見た物だった。
「……のう、キトよ……おぬしは……」
「―――――――っ」
「っ!おぬし……今、なんと?」
妾が影繰にそう問いかけたときだった。
「……っ!?」
それは唐突に現れた。
まるで、影繰の体を覆うように現れたそれは、目の無い顔でこちらを『見た』。確かに見たのだ。
『……邪魔をするな』
『我等の邪魔をするな』
『もっと殺したい』
『憎い、憎い!』
『魔物……魔物ぉ!』
『痛いよ……痛いよ……!』
『ママぁ!ママぁ!!!』
『誰か助けてぇ!!』
『なんで殺されなきゃならないんだ……!』
『呪ってやる』
『殺してやる』
『殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる』
『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』
『呪ってやる、呪ってやる、呪ってやる、のろってやる、のろってやる、のろってやる、ノロッテヤル、ノロッテノロッテノロッテノロッテノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウノロウ』
―――ゼンブ、コワシテヤル―――
―――モット、コロセ、モット、コワセ―――
―――ゼッタイニ、ユルサナイ―――
「ひっ!」
思わず後ずさる。
それは、怨嗟の声だった。
名前も知らない、見たことも無い人間の憎しみ等の負の感情。
『ソレ』ににらまれた瞬間、妾はその一端をたたき付けられた。
「お、おぬし、このような……」
その場では特に何も起こらなかった。
しかし、『アレ』を見た妾は、あることに思い至った。
『アレ』は明らかに常人が背負える物ではない、と。
「おそらく『アレ』は今まで影繰が接した死だ。当然、その中には影繰自身が手を下した死もある」
「影繰の影の正体って、つまりそういうことですか?」
「おそらくそうなるな……ただ、それにしてもアレは異質だ。あの能力が影繰自身を食い尽くそうとしているかのようだった」
影繰の正体は、死の塊。
正確に言えば、死に瀕した人間の意志の塊があの影だ。
人の意思、とりわけ悲しみ、憎しみ、絶望などといった所謂「負の感情」というものは、時には人知のみならず、魔知でさえ想像にできない力を持つ。
影繰の力も、そのせいで発現したものだろう。そして、何故あの力が進化する理由も分かっ
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