「ほぁ〜……でけぇ町だなぁ」
見渡す限り人、人、人!
右を見れば露店に人が集まって人垣を作り、左を見れば道を行きかう人々。
小さな村で暮らしてきた俺にとって、この活気、エネルギッシュな空気には圧倒されるばかりだ。
『こ〜ら、そうやって田舎者丸出しな顔しないでよダーリン!恥ずかしいでしょ!?』
「いや、仕方ねぇだろ?俺こういうとこ初めてなんだからさ。それとダーリン言うな」
『はぁ……まぁいいけど。とりあえず、目的は忘れないでね?』
そんな俺の頭の中に響く声に、俺は現実に引きもどされる。
田舎者といわれたことに、少しカチンと来ながらもこの声の言うことは正論なので俺は人ごみのを掻き分けるようにある場所を目指した。
え?俺は誰かって?
おっと、紹介が遅れたな。
俺はランド、ランド・カルタスだ。
これから冒険者になる冒険者見習いってところだな。
『ねぇダーリン、私の紹介は〜?』
「お前は後だ、後」
『え〜!?』
この俺の頭の中に響く声の主の紹介はまた後でな。
「……はい、ではランドさん、これでギルドへの登録は完了しました。これからはこのギルドの施設を自由に利用できますよ」
「分かりました」
受付のお姉さんの話が終わると同時に、俺はギルドの中を見渡す。
そこには屈強な戦士や、いかにも知的な魔道士がうじゃうじゃといた。
そして、その全員が冒険者。
俺も今からその一員になったんだな……
『ダーリン、顔、ニヤけてる』
「む」
頭に響く声に指摘され、急いで顔を揉み解す。
……よし、これでいいかな?
『うん、相変わらず男前♪』
「さっきは田舎者言ったくせに、調子いい奴だな」
周りから痛い人扱いされないために、小声で声に返事する。
声は悪びれた風も無く『えへへ〜』となにやら笑っているらしい。
「しっかし、腹減ったな。さっさと依頼受けるのもありだけど、ココは腹ごしらえのほうが先か?」
『そうね。ダーリンが空腹で戦えませんでした〜なんて目も当てられないわ』
こいつはいっつも一言多いな、おい。
それはともかく、腹ごしらえのためにギルドの中にあった食事処に行き、席に座る。
「いらっしゃいませ〜!あら?始めてみる顔ね?新しく冒険者になったの?」
「へ?あ、ああ。ランドって言うんだあんたは……」
「アニーよ、よろしく」
「こちらこそよろしく……ん?」
注文をとりに着たウェイトレスのお姉さん、アニーさんに自己紹介をすると、アニーさんはじっとこちらを見つめてきた。
な、なんだ?
「あの、どうかしたんですか?」
「へ?ああ、うん、ちょっとねー。ま、それよりご注文は?」
「はぁ……それじゃあ……」
アニーさんが手渡してきたメニューを見て、注文を済ませる。
注文を聞いたアニーさんはそそくさと厨房へと向かっていった。
『……なに?あの女。ダーリンじっと見つめちゃって』
「怒るなよ、あとダーリン言うな」
頭の中の声にそう言い放ちながら、俺は注文した料理が来るのを待っていた。
「ん?」
あれから十数分。まだ注文の品は来てなかった。
いくらなんでも遅すぎる。
『ねぇダーリン、あっちの方が騒がしいけど、なにかあったのかしら?』
「ダーリン言うなっての。……んん?あれは……」
頭の中の声が言った方向を見ると、そこにはアニーさんがいた。
ただし、酔っ払ってるのと思われる男に絡まれている状況で、だ。
「……アレのせいで遅れてんのか?」
アニーさんを見ると、両手に俺が注文したと思われる料理を持っており、そのせいで男を追い払うこともできないようだった。
「はぁ……おい、『サリサ』」
『アイサー、ダーリン』
頭の中の声に呼びかける。
すると、その声の主、サリサは呼びかけにこたえた後、ぶつぶつと何かを唱え始めた。
それを確認したと同時に、俺はアニーさんたちの方へと歩いていく。
「おいアンタ、いい加減にしておけよ。アニーさん迷惑してるだろ?」
「んぁ?ガキはすっこんでろぉ!!」
男は、顔を真っ赤にし、こちらに吼えてきた。
こりゃ完璧に酔っ払ってるな。
「まったく……昼真から酒かっくらって恥ずかしいと思わないのかよ、おっさん」
「あぁん?オメェ、俺に喧嘩売ってんのかぁ!?」
男がアニーさんから離れ、こちらに向かってくる。
さすが酔っ払い。
すぐさまこちらの思うとおりに動いてくれる。
「俺をナメてんじゃねぇぞ!クソガキがっ!」
「…………」
男がその拳を振り上げる。
酔っ払ってるこいつに自制なんて言葉は無いだろう。
そして、その拳に当たったら俺は間違いなくノックダウン。
でも、俺はあえて動かない。
そして、男が振り上げた拳を振り下ろそうとした瞬間。
「サリサ!!」
『酔っ払いはこれでも浴びておきなさい!』
ザッバーン!
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