骨と俺の日常

ズズーっ

目の前のそいつは手にしたティーカップの紅茶を音を立てて飲んでいる。
つーか音立てて飲むな、行儀わりーぞ。

「ん、ごめん」

俺のつぶやきが聞こえたのか、特に気分を害したそぶりも無く、今度は音を立てずに紅茶を飲む。
まったく、どうしてこうなったのやら。

「……もう一度聞くぞ?」
「ん」

俺の問いかけに、そいつはコクリと頷いた。

「お前は、本当にカノンなんだな?」
「ん」

そういって、目の前のこいつ、いかにも骨っ!って感じの少女は再び頷いた。




事の始まりは今から数十分前。
俺がちょうど起きたぐらいの話だった。

コン、コン

「んあ?何だ、こんな朝っぱらから……」

ベッドから起きた俺を見計らったかのように、玄関のほうから扉をノックする音が聞こえた。
で、来客をそのまま立ちっぱなしにさせるのもどうかと思って扉を開けたら、

「ハイハイどちらさま〜っと……」
「ただいま」

と、この骨娘が立ってたわけだ。

「……どちらさん?本当に」
「はくじょーもの。恋人のこと忘れるなんて」
「はい?」

恋人?
残念なことに、俺には人生で一度たりとも恋人と呼んでいい間柄になった異性は存在しない!
……言ってて凹んだ。

「私だよ、私、カノンだよ」
「新手の詐欺か……って、カノン?」
「そーそー、恋人のカノンちゃんだよ。覚えてないの?」
「いや、その……」

すまん、そもそもカノンは友人で、恋人と呼べる存在じゃなかったし、なにより……

「カノンは男だったぞ」
「何を言ってるのさ、アっくん。私は最初から恋人だったよ」
「はぁ〜?」

で、今に至るってわけだ。




とりあえずこいつをあのまま外に放置しておくわけにもいかないので(服とか一切着てないでやんの、こいつ!)部屋に入れて、俺は尋問を開始することにした。
いや、尋問っつっても別に乱暴しようってわけじゃねぇぞ。
ただ、こいつが本当にカノンなのか知りたいだけだ。

「……今までどこにいた?」
「ダンジョン。ほら、山三つ越えたところの街のやつ」
「ふむ……」

そういや、冒険者だったこいつはそこにちょっくら言ってくるといってこの家を出て行ったな。

「この家を出て行ったのはいつだ?」
「3年前」
「ふむ……」

そう、これも正解。
3年前出て行ったきり、カノンは帰ってこなかった。

「…………」

とはいえ、これだけだと人から聞いても分かる情報だ。
もっと、俺たちにしかわからない秘密を……

「……右の頬をぶたれたら?」
「そいつの両頬ぶん殴れ」
「左の頬をぶたれたら?」
「そいつの奥歯をガタガタいわせろ」
「……婆さんや、飯はまだかのう?」
「去年食べたばっかでしょ?お爺さん」
「…………」
「……どうよ?」
「お帰り、カノン」
「ただいま、アっくん」

俺は、あっさりこの骨娘をカノンと認めた。
今のふざけたやり取りは、俺たちが決めた合言葉みたいなものだ。
これを知ってるのは俺とカノンしかいないし、ここまでためらい無くこんなバカなことをいえるのも俺とカノンぐらいなもんだ。




「しっかし、ずいぶんちみっこくなったなー、カノン」
「ほんとにね、昔はアっくんと同じくらいだったのに」

そういいながら、何故かカノンは小さい体を活かして俺の膝の上に乗ってご満悦そうだ。
こいつの今の身長はだいたい俺の胸の下辺り。以前と比べてかなり小さい。
ところで、何で俺の膝の上に座ってるんだろうか?
まぁ、おとなしくしてくれるんだったら何だっていいか。
その間に、俺は魔物図鑑を見る。
いまどきどこの本屋でも売ってる代物だ。

「ん?これか?」

開いたページには、スケルトンとかかれていた。

「ふむふむ、ほうほう……あぁ、だからこいつは……」

何でも、死んだ人間の骨が魔王の魔力を受けて動き出したのがスケルトンだそうだ。
で、人間の骨が元になった場合、その人間の生前の記憶を基にして再び記憶が構築されるんだと。
が、そこで厄介なことが起きる。
もしその骨が男のものだった場合も、スケルトンに転生(厳密には違うんだろうがあえてこう言う)した場合は性別的には女になり、
自分は生前も女だった、一番親しかった友人は恋人だったというふうに、記憶に変わってしまうんだそうだ。
まぁ、男が急に女になったりしたらいろいろ混乱しそうだから、そうなるのは仕方ないのか?
ともかく、これでこいつがさっきから言ってる「俺と恋人だった」発言のなぞが解けたわけだ。
ついでに俺と話がかみ合わないわけも。
しかし……

「?」
「ちょいと失礼」

俺の膝の上で静かにご満悦しているカノンの腕を取る。

「ふむ、人間の骨の感触なんて分からないけど、確かに骨っぽい感じはする」

なんというか、鶏肉の骨みたいな感触?

「んー、な
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