幼馴染は斬鉄剣

「興味がない」

最早一刀両断。
有無も言わさぬ早業だった。
そう言い放った彼女は、最早興味がなくなったのか、こちらにすたすたと歩いてくる。
男のことはすでに無いものと思っているのだろう、もう男に目もくれることも無かった
その男はよほど自信があったのか、断られたことが予想以上にショックらしく、
抜け殻の如く様相でフラフラとその場を後にした。

「うげぇ、これで何人目だ?」
「これで挑んでいった猛者は49人目。50の大台まであと一人……か」

今は昼休み。
んで、ここは俺がいる学園の教室。
さっき何が起こったかというと、我がクラスの「斬鉄剣」ことクゥエルがものの見事に男を振るということが起こった。
ちなみに、この二つ名の斬鉄剣、告白を片っ端から切り捨てるように断っていくからついた二つ名だ。

閑話休題

ともかく、よりにもよって教室内で告白してくる奴がおり、そいつを斬鉄剣の名に恥じぬ切れ味で切り捨てたのがついさっき。
当然教室内でこんなことが起こったら、クラス中が騒ぎ出すのは当然のことで。
ほら、今も俺の前で男がいろいろ言ってるし、教室を見渡せば、女子までもがひそひそと小声で話している。

(しかし、よりにもよって何で教室で告ろうなって馬鹿な真似を……)

俺はついさっき切り捨てられたイケメン先輩(名前なんぞ知らん)に同情する。
おそらく、人目のあるところならクゥも断りにくいと思ったのだろうが……

「……あいつに人目を気にするというスキルはねぇんだよ」

結果、人前で無残に一刀両断されるというなんともかっこ悪い場面をこのクラスの全員に見られてしまったということだ。

「おい、カル……お前斬鉄剣の幼馴染だろ?もしかしてもう付き合ってるとかないよな?」
「ん〜?あぁ、ないない、というか無理無理。だってよ……」

俺の前でひそひそ話していた男二人のうち、一人が俺に向かってこんなことをのたまってきた。
だから俺は、隣の席にいつもどおりの無表情で戻ってきたクゥを見やる。

後頭部あたりから生えたまるで虫の触角のようなもの、というか触覚そのもの。
そして人間で言う側頭部にある金色の瞳のような装飾。
ここは学園ということで、普通なら制服を着ているはずだが、そいつは例外で、
なにやら緑の甲殻みたいなのと、緑の布なのかよく分からないものに身を包み、
極めつけなのは両腕の甲辺りから生えている立派な鎌。

そして、それらを見ながら、その男にこう言ってやった。

「だって、こいつマンティスだし」

マンティス。
簡単に言うと、無愛想で無口で無表情。
見事な無が三つそろった魔物だ。




「お〜い、クゥ!一緒に帰ろうぜ!」
「…………」

放課後。
帰り支度を済まし、さっさと帰宅しようとするクゥに声をかける。
クゥはその声にちらりとこっちを向くが、すぐに前に向き直り、すたすたと歩き出してしまった。

「へぇへぇ……だったら勝手について行きますかねぇ……」

これはいつものこと。
俺が物心ついたころからの習慣だった。
あいつは一人でさっさと帰ろうとする。
それに俺がついて行く。
普通だったら無視されたらムカついてそれっきりだろうが、ガキのころからこんなんだったから、
最早これが普通なんだろうな〜と思ってたりする。

「とはいえ、一抹の寂しさは隠せませんよ〜っと」

マンティスは日々を生きるためだけに生きているという。
生きることそのものが目的なので、他の魔物みたいに男に執着するとか、そういうのがないらしい。
だから、普段生きるためになんら必要のない男や他の生物は眼中にないらしいのだ。
だから今日のような見事な一撃必殺、なんてこともあるし、今こうやって話しかけても無視なのだ。
いや、無視というより、もともと意識の中にないので、無視しているというのもちょっと違うだろう。
つまり俺はこいつにとっていないも同然なのだ。

「…………」

まぁ、それが森の中とかなら問題ないんだろうが、社会の中だとかなり問題だったりする。
とにかく敵を作りやすいのだ、こういう奴は。
俺がこいつについて回るのは、フォローのためって言うのもあるわけだ。
単に家が隣同士ってのもあるけどな!




「んじゃ、また明日な?クゥ!」
「…………」

家に着くと、あいつは俺の挨拶に返事をすることなくすたすたと家に入っていってしまう。
まぁ、アウトオブ眼中だから仕方がないかなとは思うが、もう少し反応らしい反応があってもいいじゃないかとも思う。
いいけどさ!俺男だもんな!!気にしたらだめだよな!!

「ただいま〜!」

俺も自分の家に入り帰宅の挨拶をする。
いつもどおりだったらここで母が「おかえり〜」と間延びした返答を返すはずなんだが……

「ああ、お帰り、カル君……ということはクゥは家にいるの
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