人っ子一人いない浜辺で、私とマリナが向かい合う。マリナの顔は熱した鉄の様に赤く、瞳には涙を溢れんばかりに溜め込み、今にも決壊しそうだった。
気持ちはわかる。あれだけの自慰を見られたら誰だって泣きたくなるだろう。
気まずい空気が流れる。出来れば逃げ出したかったが、彼女は今の私の生命線だったので、その気持ちを必死にこらえた。
しかし、このまま静寂が続けば、居辛くなった彼女は何処かへ行ってしまうかも知れない。私は心の中で激しく悩んだ。悩んだ末……
「あ、あの……」
「…………はい」
「い、いい天気ですね……」
見なかった事にした。
「そ、そうですね……」
マリナもぎこちなく相槌を打った。ここには私と彼女だけ。両者の同意が得られれば、何でもありなのだ。今ここに薄暗い不可侵条約が結ばれた。
「………………」
「………………」
「……だってしょうがないじゃないですか!!」
意外にも彼女の方から条約を破棄した。
「何処へ行っても儀式儀式で忙しくて恋人作る暇ないですし!目の前で性交見せつけられますですし!とにかく欲求不満なんですよ!」
彼女は溜め込んでいた感情を、というか劣情を爆発させるように、怒鳴りつけるように私にぶちまける。
「それなのにあんな小説見ちゃったら……!!もう!人間の小説があんな破廉恥だなんて知りませんでした!」
「でも、結構楽しそうに読んでたじゃないですか」
思わず口に出してしまう。
しまった。と思った瞬間、マリナは脇に抱えた石板を振り回す。目の前を横切る風圧で前髪が揺らめく。当たったら死んでた。
本だってものによれば武器になるというのに、石板なんて凶器そのものじゃないか。細身な見た目に反して力持ちなのかもしれない、と右へ左へと体を振りながら私は思った。
マリナの猛攻を避けながら必死にどうどうとなだめ、彼女も攻撃の手を休め始めた頃。
私は頃合いと思いマリナにどうすればいいのか相談した。この無人島から抜け出す方法を、だ。マリナの怒りもどうやら収まったようで、肩で息を切らしながら私の話を聞いた。
「早く帰る方法、ですか……。あ……」
と、彼女は何か閃いたようで、しかしすぐに顔を赤らめて俯く。
「なにか、いいアイディアがあるんですか?」
「ある事は、あるんですけど……」
何処か躊躇うような口振りで答える。
「どんな方法でも構いません。私に出来る事があればなんでもします」
最早手段は選べない状況だ。彼女の気が変わる前に一刻も早く帰還せねばならなかった。
「本当に、ですか?」
「男に二言はありません。遠慮なさらないで下さい」
マリナは少し考えた後、何か決心したように真剣な面持ちで私を見た。
「それならば」
私の目の前に両手を突き出す。その手には、私の小説。
「これと、同じことをして下さい!私と!!」
砂浜に、落ちていた布を敷き詰めて作った絨毯に二人で向かい合って座る。彼女は小説を開く。
「では、始めます」
マリナは絨毯に寝そべり、私はマリナにのしかかる様に上になった。
「まず……」
マリナ顔を赤らめながら、開いた小説に目をやる。
「熱い接吻を交わす、ようです」
そう聞いた私は、ゆっくりと彼女の唇へ近づく。マリナは恥ずかしいのか、目をつむっている。
どちらが先でなく、唇を重ねる。
「ん……ちゅ……ふ……あむぅ……」
柔らかなマリナの唇をこじ開け、私の舌が侵入する。マリナの舌と私の舌が絡み合い、まるでそれが一つの性交である様にみっちりと、絡みついてた。
「ん……ぷはぁ……」
ゆっくりとと口を引くと、唾液の糸がたらりと二人の唇に橋をかけていた。
「あ……えと……次は……」
マリナは本に目をやり、ページをめくっている。
彼女は私との性交を要求した。それも、官能小説を再現するように、というマニアックな条件を付けて。
本を内容に追従する理由はともかく、魔物娘と肉体関係を持つことがどういう意味を持つかのか。私は知らないわけじゃない。
覚悟していた。いや、むしろ望んでいたと言っていい。それが事務的だったとしても、それが彼女達シー・ビショップの習性だったとしても、私を助けてくれたマリナの優しさにいつの間にか心を奪われていたのだ。
世間一般には、彼女らは人類の敵だ。国を挙げて魔物を滅ぼそうとする国もある。しかしここは無人島。人もいなければ常識もルールもない、私とマリナだけの世界。私がマリナを拒絶する理由は、無かった。
「次に、お互いの服を……脱がします……」
彼女は私のシャツのボタンに手を掛ける。一つ、また一つと器用に外していき、私は胸を露見させた。まじまじと見られるのはなんだか恥ずかしかった。
私も負けじと彼女の服を脱がす。胸の蝶結びになっている紐をつまむと、ゆっくり引っ張る。
するすると音を立ててほどけると、マリナのたわわな胸がさらけ出さ
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