アトラク=ナクア 危険度 EX

 好評を頂き連載型となった、危険な魔物娘についてのインタビューレポート。
 今回我々が出会ったのは、前回同様、深淵をのぞきながら人の形を保つ男性“B”さんだ。
 彼が愛する魔物はアトラク=ナクア。
 魔物時代の面影を残すアラクネ種の中でも異質な存在。
 彼女の糸によって紡がれた愛の巣は世界を覆い尽くし、深淵の魔界へと誘うと言われている。
 文献などの情報だけでもその危険性が分かるアトラク=ナクアであるが、Bさんはそんな彼女と交際をしつつ、商店街で惣菜店を働いているという。
 到底信じられない話だが、現に彼は目の前で陽気に笑っているのだ。
 年は20と若く、魔物に対する知見があるわけでもない彼が、一体どのようにして正気を保っていられるのか。
 

記:今日はよろしくお願いします。

B:面白い話かは分かりませんが、何でも聞いて下さい。

記:ではまず、彼女……アトラク=ナクアに出会った経緯を聞かせてもらえますか?

B:あいつと初めて会ったときですか?え〜いつだったかな……そうだ、確かバイトの帰りでした。
 その日はいつもより長引いちゃって、真っ暗な人気のない道を端って帰ったんです。
 でも、途中から雰囲気がおかしくなったというか、いつの間にか知らない洞窟みたいな場所に迷い込んじゃったんですよね。
 後になって、彼女の仕業だって気が付いたんですけど。
 で、出口を探している内に、イライラしてるあいつを見つけたんですよね。
 
記:それではあなたの一目惚れだったんですね?

B:? いえ、声をかけてきたのはあいつからでした。

記:そうなんですか!?あの、蜘蛛になりきる練習を一年間されたとかじゃないんですか?

B:おっしゃってることがよく分かりませんが……。
 とにかく、あいつは目があった途端、俺のことをからかったんです。
「ばーか」「のっぽ」「あーほ」とか。

記:語彙力が低い

B:ですね。それで怒る気分にもならなくて、愛想笑いで彼女の罵倒を聞いていたら、突然首筋に噛みつかれたんです。
 なにか、高濃度のお酒でも流し込まれたような気分になって、頭が回らなくなって、気が付いたら……彼女としちゃってたんです。

記:性行為、ですね。

B:……はい。その時の記憶はぼんやりとしか覚えてないんですけど、しっかりつながってたし、膣内にも出しちゃってて、言い逃れは出来ませんでしたね。

 それで、あいつにこう言われたんです。

「あ〜あ、私みたいな小さな女の子に射精して、自分がなにしたか分かってる?これはもう、ちゃんと責任とって貰うしかないわね」

 ……って。

記:それで、承諾してしまったと。

B:まぁ、やってしまったし、可愛いなと思っていたので。

記:その時、姿を蜘蛛に変えられなかったのですか?

B:あ、それは断りました。

記:は?

B:いや、だから「ごめん、蜘蛛になるのは無理。だったら付き合えない」って伝えたんです。だから蜘蛛にはなってません。

記:アトラク=ナクア、彼女さんは了承されたのですか?

B:メチャクチャ罵倒されましたけどね。「バーカ」「ゼツリン」「デカチン」とか。

記:語彙力が少し増えた。
 ……ちなみに、何故蜘蛛になりたくなかったのですか?蜘蛛が嫌いとか?

B:いえ、そういうんじゃなくて……実は俺12人兄弟の長男で、しかも両親二人ともちっちゃい時に事故で亡くしてるんですよね。
 頼れるあてもなかったから、学校にも行かず仕事して弟妹の食い扶持を稼いでるんです。

記:苦労なされてるんですね。

B:だから、まだ弟達が巣立つまで、蜘蛛になんてなってられないんです。そのことをキチンと伝えたら、彼女も分かってくれたみたいで渋々了承してくれました。




 我々はこのとき驚愕していた。まさか「断る」などという方法で人の形を保つ人間がいようとは。
 しかし、これは全ての相手に通ずる方法ではないと断言できる。
 彼が持つ太陽のように朗らかな精神性がアトラク=ナクアの毒を打ち負かしたからこそ出来た事なのではないだろうか。
 我々は気を取り直し、インタビューを続けた。


記:では、人間の形態で困っている事はありますか?

B:いや、僕の方は望んでこの姿をしているから特には……あ、でも困ってるのは彼女の方かも知れませんね。
 
記:と、言いますと?

B:彼女との約束で、定期的にエッチをする事になってるんですが、いっつもあいつが沢山イっちゃうんですよね。
 俺が一回射精するまでに、4〜5回はイってるんじゃないかな?
 はじめは彼女が感じやすいだけだと思ってたけど、どうやら原因は俺が人間のまましてるせいみたいなんです。




 Bさんの推測は確かに当たっていた。
 蜘蛛になるとその骨格は不可思議なほどに変化するが
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