森を抜けたあなたの目の前に広がるのは、荒涼とした大地でした。
ぺんぺん草一本も生えない程枯れた土地なのか、生き物の気配は全く感じられません。
気味が悪いと感じたあなたは、駆け足でこの地帯を通り抜けることにしました。
風に舞う塵から目と口を守りつつ歩いていると、何かにつまづいて転んでしまいました。
何か大きな石に引っかかったあなたは、それを間近で確認します。
性格には石というよりは石版のようなもので、魔界の文字でなにやらかかれているのが分かります。
あなたは言葉の意味は分かりませんが、その石版がなんなのか気が付きました。
これは墓標です。誰かの亡骸がこの下に埋もれていることを示しています。
そして、周りには似たようなお墓があなたを囲うかのように立っているではありませんか。
どうやらあなたは気付かない内に、魔界の墓地に迷い込んでしまったのです。
いよいよ怖くなってきたあなた。そこに追い討ちをかけるように、何かが視界の端でズルリと動き出しました。
ガチャリ、ガチャリと擦れるような音を立てて“それ”はあなたに近づいてきます。
“それ”が纏う刀剣の如く鋭いオーラにあなたは恐怖し、その場にぺたりとへたり込んでしまいました。
「そこの殿方、見かけぬ顔だが、どこから参られた?」
しかし“それ”は……いえ、彼女は丁寧過ぎる位の言葉遣いで、あなたの事を気にかけていました。
落ち武者。
武士の亡骸が妖力を纏って動き出すジパング発祥の魔物娘。
死してなお主君を求め、戦地をさまよい続けているといいます。
このように落ち武者と遭遇した場合、逃げたり攻撃したりせず、大人しくするのが正解です。
とても物騒な見た目の彼女達ですが、向こうから襲ってくることは殆どありません。
むしろ、気になる男性を見つけては声をかけ、自分の主にしようとしてくるのです。
気質として相当惚れっぽいといいますか、俗世的な言葉を用いれば「チョロい」です。
このまま適当に話をしていれば、勝手に落ち武者の方から好意を示され、お慕い申されることでしょう。
今回はその落ち武者をさらにベタぼれさせるテクニックを、読者の皆様にご紹介します。
※なお、本書は日本と呼ばれる、ジパングによく似た国の言葉で発行されておりますので、読者の皆様も日本の方、と言う体で展開します。
勿論、日本人以外でも参考になりますのでご安心下さい。
STEP1 “ブショウ”アピール!
・一人称は『拙者』or『某』
・語尾には『ござる』
・イエスノーの質問には『笑止』『無論』で答える。
など、やりすぎだろという位に堅苦しい言葉遣いにしてみましょう。
彼女達は絶対に怪しみません。それどころか、あなたに尊敬のまなざしを向けること受け合いです。
その理由をご説明します。
某出版社が調べました『落武者100人に聞いた、主君にしたい職業ランキング』におきまして、公務員・専業主夫・○○チューバーなどを押さえ込んで堂々一位となった職業が『戦国武将』なのです!
もちろん、現役で鎧を着込んで勝ち鬨を上げるような方はもういらっしゃらないのは皆様ご存じかと思われますが、それを彼女達に説き伏せるのは難しい。
なぜか。
限られた時代の限られた職業、さらには火葬されていない亡骸からしか生まれない落武者。
にもかかわらず、その個体数は年々増加傾向にあるそうです。
実は、近年の日本ブームによって落武者化する海外のゾンビ達が増えています。
美しく舞い散る武士に憧れた彼女達は、死後に髪を染め、通販や自作などで鎧をそろえ、世界を越えてわたってくる僅かな日本の知識を蒐集しているのでした。
つまるところ、ジパング以外で遭遇する落武者はほぼ全て、根っからの“戦国オタ”なのです!
その数は、元祖である落武者の数に切迫しつつあります。
独身の落武者と出会ったら、ほぼ確実に戦国オタ、という認識で問題ないでしょう。
知識も乏しい上にチョロい彼女達は、戦国風のしゃべりのあなたを見て、ある一つの可能性に気付くのです。
STEP2 あなたの事を聞かれたら……
「不躾な質問で申し訳ないが、貴殿の姓名を伺ってもよろしいだろうか」
あなたがただ者ではないとふんだ落武者。
それを確認されたらしたり。
あなたの名字に照らし合わせて参照下さい。
・「オダ」「トヨトミ」など、有名な名字。
→聞いた瞬間、落武者は膝をついてあなたへの無礼を詫びます。寛容な心を持って許してあげましょう。
彼女達は戦国時代にはやたら詳しいので、多少マイナーでもオッケーです。
・上記の名字ではない。明らかに日本風ではない。
→「名字は○○ですが、実は遠縁に……
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