部屋の呼び鈴がなって目を覚ます。
「んんぅ〜……」
布団からはいずり、スマートフォンをつける。
時間は昼過ぎ。
あの後、夜明けまで犯された僕は、デルシアさんの専用リムジンでアパートまで送ってもらったのだった。
週末の約束の為、次の日は必ずオフになっている。その分、僕のレギュラー番組は少ないが、致し方あるまい。
呼び鈴が再び鳴る。僕は手早く着替え、封筒を手にしてドアの鍵を外した。
扉を開けると、サングラスをかけた強面の男性が立っていた。
「おう、いたんか。いねーのかと思ったわ」
「すいません。昨日が遅くて……あ、これ今月分です」
「おう」
分厚い封筒を男性に渡した。
封筒の中には札束が入っており、男性は二回ほど数を数えると、それを懐にしまった。
「いつもご苦労様です」
そう言ってペコリと頭を下げると、男性は複雑そうな笑顔を返した。
「お前ほど苦労しちゃいねぇよ。大変だな、逃げた親の借金背負わされてよ」
「いやまあ、しょうがないですよ。借りた分はしっかり返さないとですし」
そう、僕の両親は闇金融に多額の借金をしたまま、小さかった僕を残して消え去った。
消息はつかめていない。海外か魔界にでも高飛びしているのかもしれない。
身よりのない僕は孤児院に預けられたが、両親の負債からは逃れられずにいた。
その借金を返すため、僕はアイドルとして活動しているわけだ。
「それに、借金ももう少しで返せますしね」
とうてい払えそうになかった金額だったが、気が付けばあと数回で完済する目処がついた。
アイドルの給料の殆どを返済に充てた甲斐があった。
「……俺もさ、捨て子だったんだよ」
ふいに遠い目をする男性。
「親に恵まれなかった者同士、がんばろうぜ。何か困ったことあったら言えよ。腕っ節には自信あっからさ」
そういって、気さくに笑って去っていった。
見た目はとても怖いが、いい人だった。
遅い昼食をとりつつ、今後の事について考える。
借金を返し終わった後のことだ。
元々は金稼ぎの為にがんばってきたわけで、返済が終わればアイドルを続ける理由はなくなる。
ある程度お金を貯めたら、卒業して海外旅行にいくのもいいかもしれない。
ずっと仕事詰めだったんだ、ちょっと羽を伸ばしても罰は当たらないだろう。
そんでもって、気が向いたらまたアイドル復活しまーすと芸能界復帰するのも面白いかも。
そんなことを絵空事を描きつつ、インスタントラーメンをすすった。
ちょっと伸びていた。
一週間が過ぎ、またデルシアさんの所へ行く日になった。
だが、今日は少し調子が悪い。
(なんだろ、身体が、重い、ような……)
食費をギリギリまで切り詰めてきたのと、ここの所仕事が忙しかったのが重なったのか。
足下がおぼつかず、世界がぐるぐると揺れている気がする。
いつもの様にエレベーターを出ると、デルシアさんが出迎えてくれた。
「ふふっ、今日ものこのことやってきたわ……ね……」
高飛車に振る舞うデルシアさんが、僕の顔を見た途端言葉を詰まらせた。
「ちょ、ちょっと、あなた顔色悪くないかしら?なんだか私達みたいになってるけど……」
「い、いえいえ、全然大丈夫ですよ。最近少しハードワークだっただけで、全く支障はありません」
「……そうなの?ま、まぁ、あなたがどうだろうと私のやることは変わらないけれど」
デルシアさんは怪訝そうな顔をしたがなんとか納得してくれたようだ。
ここで体調悪いから休ませて下さいなんて言えるわけがない。これは仕事なんだから。頑張らなくちゃ。
「それじゃ、いつものでいいわね?」
ジュースが注がれたコップを手渡される。
覚悟を決め、ぐいっと流し込んだ。
(あ、れ……)
あ、だめだ。気持ち悪っ……いや、吐いちゃダメだ、でも、もう立ってられない。
世界がぐるんと回転を始め、バランスを保てなくなった僕は、そのまま床にぶっ倒れた。
目が覚めたとき、僕はベッドの上で横になっていた。
「起きたのね」
身体を起こすと、隣には椅子に座ったデルシアさん。
ものすごく機嫌の悪そうな顔をしている。
「全く、人間というのはつくづく愚かな生き物ね。自らの体調管理すらろくに出来ないなんて」
「本当に申し訳ありません……」
あの後、倒れた僕をデルシアさんが慌てて病院に運んでくれたらしい。
単なる栄養失調だったのでそのまま返され、デルシアさんのベッドで寝かされていた。
「おかげで、貴重な時間が無駄になってしまったわ」
心配させてしまったのか、デルシアさんはかんかんに怒っている。
最悪だ。大事なスポンサーである彼女
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