「みんなー!今日は来てくれてありがとーっ!」
「今日は最高のライブにするから、最後まで楽しんでってくれよ!」
「それでは一曲目は私たちのデビュー曲『サクランボstart!』聞いてください」
きらめくステージの真ん中でポップミュージックにあわせて歌い踊る僕と二人のメンバー。
僕らは魔界で大ブレイク中の男子アイドルユニット「ピュア3」
ユニット名通りメンバーは三人。
熱血体育会系キャラのアキラ君、クールな頭脳派キャラのカオル君。
そして僕、マオ。
純粋無垢のショタ系アイドル。
という設定で、仲良く活動しています。
「あー終わった終わった。今日も疲れたぜ」
楽屋に入るなり、アキラ君は畳で横になった。そんな彼を見てカオル君は呆れて溜息をつく。
「まったくだらしがない。誰かに見られたらどうするのです?」
「だから楽屋まで我慢してんだろ。いいじゃねえか」
やれやれ、と肩をすくめるカオル君。
性格の合わない二人は時々もめるが、それほど大事にはならない。二人とも分別があるし、それでもなりそうなときは僕が仲裁に入る。
僕もいすに座り、ペットボトルのお茶を飲んで一息付いた。
「今日もお客さんでいっぱいだったね。熱気が伝わってきたよ」
「ライブをやる度に、観客数は跳ね上がってますからね。次からはライブビューイングを導入する話も来てますよ」
「まじかよ。俺らもいつの間にか売れっ子になっちまったなぁ」
魔界と人間界が統合され、世は空前のアイドル戦国時代に突入した。
火付け役となった、魔物娘のみで構成された『イブニング娘。』をはじめ、芸能界にはいくつものアイドルグループが存在し、ほぼ全ての需要を網羅している。
一方、魔物娘はアイドルになるだけではない。アイドルに夢中なのは魔物娘も同じであった。
そも、魔界にはアイドルの概念どころか、テレビすら存在しなかった。
そんな彼女達にとって、人間の男性が露出の多い格好で踊るアイドルグループは実に斬新で画期的な存在であり、爆発的にヒットするのも致し方なかった。
「しっかし、魔物娘ってのは一途に恋する連中なんだろ?アイドルに熱あげてて大丈夫なのかね?」
「いえ、それが観客の大半は男女のカップルで来ているらしいですよ」
「そうだったのか!?」
「しかも、独身の女性は私たちのライブを見に来た男性と知り合って交際する事もあるとか。男性のファンもいらっしゃいますからね」
「ははは、幅広く人気なんだねぇ……」
たしかに握手会を開くと、僕の所には魔物のお姉さんの他に男性のファンの方もよく来てくれる。
ファンレターも、男の人からのが結構ある。
コンプレックスだった中性的な顔が、こんなところに需要があったとは思いもしなかった。
他愛もない話をしていると、ドアをノックして七三分けの男性が顔を覗かせた。僕達のプロデューサーだ。
「みんな、お疲れちゃ〜ん。今日のライブもすんばらしかったよぉ〜。グッズも売れたし、お客さん満足して帰ってくれたわ〜」
ナヨナヨとした雰囲気をしているが、これでもいくつもの仕事を持ってきてくれるやり手のプロデューサーだ。いつも仕事終わりに僕たちをねぎらって、アイドルのケアも欠かさない。
「あ、それでマオ君。休憩して着替え終わったら、またいつもの、いいかな?」
そして、仕事終わりに決まって僕を呼ぶのだ。
「わかりました。すぐに支度します」
「いつもゴメンね。でも、あの人マオ君の事すごく気に入っているから……」
申し訳なさそうに頭を下げるプロデューサー。別に彼が悪い訳じゃないし、僕は仕事だと割り切っているのだけれど。
「大丈夫ですよ。だって僕、アイドルですから」
身なりを整えた僕は、高層ビルの最上階までエレベーターで向かう。
何度も経験しているのに、ここにくると少し緊張してしまう。
住んでいる世界が違うことをまざまざと実感させられる。
最上階に到着すると、夜の市街を眺められる絶景のVIPルームに直接つながっている。
「来たわね。いつもより遅いじゃない。」
社長机に座って僕を迎えてくれるのは、スーツ姿をした青白い肌の女性ーーデーモンだ。
「お待たせして申し訳ありません。今日はライブがありまして……」
「知っているわ。でも、そんな事は言い訳にはならない。そうでしょ?」
「おっしゃるとおりです」
「まぁ、いいわ。今日は何があったのか、ゆっくり聞かせてもらおうじゃない。飲み物でも飲みながら、ね」
彼女の名はデルシア。このビルのオーナーであり、とある一大企業の社長。
そして、僕らピュア3の大事なスポンサーでもある。
デルシアさんは魔界産のブランデーを開けると、
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