後編

俺は石壁の扉に体を預けるように座っていた。
時折、パラパラと頭に砂が降り注いでは、パタパタと手で帽子を払う。それ以外の動作は殆どせず、ぼうっとしていた。

あの後、タナンはひどく機嫌を悪くした。まさか自分の求愛を断られるとは思わなかったのだろう。
ファラオの力を使えばどんな者でも言う事を聞くし、何より自分の美しさに自信があったから。
しかし、俺は申し出を断った。これは自分でも意外だった。
ニュアンスの問題だったのだろうか。永遠という時間を、美しい伴侶がいるとはいえ、この薄暗い遺跡で過ごす自分をイメージした俺はそれを嫌悪した。もう少し違った言い方だったら断れなかったかも、そう考えると少し寒気がする。
何はともあれ、俺は部屋から追い出された俺は、砂埃舞う廊下で次の手を模索していたのだった。

正直、あの時に嘘でも求愛を受けていればよかったと少し後悔している。ファラオの夫となれば宝も楽に手に入るだろうし、どうにか手を打てば逃げることも出来たはずだ。
しかし、やってしまったものはしょうがない。そんな失敗今まで何度もしてきた。それに、人を騙して金品を奪って逃げるなんてのは詐欺師や盗賊のやること。俺は誇り高きトレジャーハンター、正々堂々とお宝を頂くのが筋というものだ。
だがしかし、どうやって頂くか。結構簡単にファラオの部屋、古代遺跡の中心部に来れたのはいいが、そのせいでこの遺跡の構造をまるで掴めていないのだ。何日かかけてじっくりと調べあげてから入る予定だったのだが、はてさて何処に宝物庫があるのやら……。
いっその事、テトスに案内してもらうのもありかもしれない。そう思った時、彼女たちの姿が見えないことに気付いた。彼女たちも俺と同じく、部屋を追い出された筈だが。

すると、何者かが物凄い勢いでこちらに向かってくる。
「大変にゃ大変にゃー!!」
テトスだった。髪を振り乱し息を切らせながら女豹のように四足で駆けてくる。
「ヨコーネル!ファラオはどうしたにゃ!?」
「あいつなら部屋だよ。まあ、色々あってな……」
素直にタナンを怒らせたとは言いづらかった。しかし、テトスはそんなことを気にも止めない様子でタナンの部屋の扉を叩いた。
「ファラオ!すぐに部屋から、出てくるにゃ!ここは危ないにゃ!!」
「おい、そりゃどういうことだ?」
だが、聞かなくともテトスの焦慮に駆られた様子からただごとではないことは伺えた。
「もうここはダメにゃ!早く脱出しないと皆生き埋めになるにゃー!」
俺は扉をこじ開け、中で寝ていたタナンを引っ張りだすと、そのままテトスと一緒に走りだした。

薄暗い廊下を三人で全力疾走で駆け抜ける。正確には、テトスが走る後ろをタナンの手を引く俺が追走していた。
魔物娘だけあってその速さは凄まじく、俺は必死に後を追おうと必死で足を動かした。乾いた空気をガンガン吸い込んでは吐き出しているので喉は渇ききっているが、悠長に水筒を開けて飲んでいる暇などない。もうじきこの遺跡は砂漠に沈むのだ。何者かが起動させたトラップによって。
そう、俺とテトスたちがタナンを相手している隙に誰かが侵入し、遺跡を荒らしまわったのだ。その時におそらく起動させてしまったのだろう。
「なんで自爆するような罠しかけるんだよ!」
「余の宝具には強力な武具や兵器になりうるものがある。誰かに悪用されるくらいならここで永遠に封印したほうがよい」
そう言うタナンは先程の高慢で気品あふれる雰囲気から一変して、気怠そうというか、感情に乏しい。それでも魔物娘というだけあり息切れ一つ起こしていない。
「……なんでさっきから元気がないんですかねぇ?」
いった途端、タナンは足を止める、手をつないでいた俺は当然のごとく後ろに引っ張られ、慣性でバランスを崩し尻餅をついた。
「……大砂漠の主たる余を散々こけにした挙句、よくもまあぬけぬけとそんな口が利けたものだな」
表情と声色から読み取る限りでも、彼女の怒りが極致にまで達していることがよくわかった。
「はぁ?俺が、お前に何かしたって?身に覚えがないな」
しかし、あえて気付かないふりをする。もし謝ったりしたら、そこにつけ込まて何をされるかなんて分かりきった事だ。
「ぐぬぬぬぬ……」
結果的にタナンを煽る形になり、彼女の炎は更に強く燃え、煮えたぎる熱湯の様に体を小刻みに震わせる。
お互い立ち止まってなどいられない状況なのだが、そんなことはまるで気にせず睨み合う。
「大体なぁ……」
タナンが口を開く。

「余はお前なんぞ抱きたくなかったわぁ!!」

……うっわぁ……。
抱きたくなかったなんて初めて言われたけど、これは、かなり、傷ついた。
内心では致命傷とも言えるほどの大打撃を負ったが、表情は努めてポーカフェイスを維持。
「じゃあなんであんなことしたんだ?」
若干顔が引き
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