「暑いねー」
「夏だからな」
「セックスする?」
「そうだな……うん?」
八月中旬、真昼。雲一つない青空の下、燦々と照り付ける太陽の光を浴びながら、ラムダは思わず首を傾げた。そして彼は首を回し、背後から自分を抱き締めていたメロウのモニカを肩越しに見つめた。
「なんでそうなるんだよ」
「だって、暑いんだもん。暑いからセックスしたくなるのは当然の流れじゃない」
「ならねえよ。なんでそうなるんだよ、セックスマシーンめ」
けだるそうにラムダが愚痴をこぼす。モニカはその悪口に対して悪感情は抱かず、ただ楽しげに破顔させながら彼を抱く腕に力を込める。
「セックスマシーンでもいいもーん。とにかく私は今とっても暑いから、ラムダとえっちなことがしたいの。おわかりかしら?」
「そんなに暑いんなら家に戻ればいいだろ。暑いからエッチしたいって、どういう理屈だ」
大海原のど真ん中、水深百メートルの地点にある自分達の住処から浮上し、二人して海面を漂いながら日光浴に興じていた時の事である。この時二人は服を着ておらず、全裸であった。しかし日常的に水中で生活していた彼らにとって、衣服はもはや邪魔なものでしかなかったのである。
閑話休題。外に出て日光浴をしようと言い出したのはモニカであった。そして今、二人は立ち泳ぎの姿勢になり、胸から上を海面に露出させていた。
「それに、始めてからまだ十分も経ってないぞ。いくらなんでも早すぎじゃないか?」
「だって、仕方ないじゃない。こうして抱き締めてると、あなたの体温と匂いを間近に感じて、あそこがきゅんきゅんしちゃうんだもん♪」
「……じゃあ、抱き締めなきゃいいんじゃないか? 俺だってもう一人で泳ぐことくらいできるぞ」
モニカと婚約を果たし、海中で生活を始めたラムダは、今ではすっかり泳ぎ方をマスターしていた。インキュバス化したことによって体力も増し、おかげで彼はまさに魚のように、自由自在に海中を行き来することが出来るようになったのである。
「もう昔とは違うんだ。お前のサポート無しでも、十分やれるって」
ラムダに水泳のイロハを教えたのはモニカだった。このメロウは自分を愛してくれた人間に、まさに手取り足取り、懇切丁寧に泳ぎ方をレクチャーしたのである。
しかし、そんな「自慢の生徒」の自信満々な台詞に対し、モニカはまったく不服そうに頬を膨らませた。
「あなたはいいかもしれないけど、私は嫌なの」
「泳げないから?」
「そうじゃないわ。泳ぐ分の魔力は、ちゃんとあなたから補充してるから問題ないの」
メロウの習性――結婚した相手に自身の帽子を贈るという行為によって、モニカはもう単体では泳ぐことも出来ない体になってしまった。帽子には海神の加護が籠められており、それがもたらす魔力によって、メロウ達は海での生活を問題なく送ることが出来ていたのだ。
モニカはそんな帽子を、求婚の際にラムダに贈呈した。そしてそれによって失われた魔力は、ラムダから直接いただくことで補給していたのである。
「そうじゃなくって……あなたと離れたくないの。一人でも問題ないかもしれないけど、それでも私は、あなたと離れたくないの」
モニカは完全にラムダに依存していた。そしてラムダも、そんなモニカに不変の愛を注いでいた。
そしてモニカは、そうして自分を愛してくれるラムダの体を、愛おしげに抱きしめた。
「私は、あなたと一緒に日光浴がしたいの。ぴったり体をくっつけて、一緒にお日様に当たりたいのよ」
「それで発情してちゃ世話無いだろ」
「だからさっき言ったでしょ。暑いのが悪いのよ」
外がこんなに暑いから。
こんなに体が火照ってくるから。
「夏の日差しであなたの体が熱くなって、汗が出てきて、匂いも強くなってきて。それが私をクラクラさせるの。私の理性を崩していくのよ」
「そうやってセックスしたくなるのも、夏のせいってことか」
「そうよ。空が澄んでるのも、日差しが強いのも、私がえっちな気分になるのも、全部夏のせいなの」
全部夏が悪いのよ。肩越しにモニカが囁く。
続けてモニカが顔を動かし、ラムダの肩に浮き上がった汗を舐めとる。
柔らかく、ねっとりとした物体が肌の上を這いまわる。その粘ついた感触を受けて、ラムダが僅かに体を震わせる。
「んふふ、しょっぱい♪」
肩にかかった海水とラムダの汗を同時に味わい、モニカが楽しそうに微笑む。そして微笑んだまま誘惑するように、そっとラムダに耳打ちする。
「ねえ、いいでしょ? 夏の日差しに負けないくらいに、熱いことしましょうよ?」
「……」
対してラムダは一つため息をつき、優しくモニカの腕をほどいて体を動かし、彼女と向き合う。
「俺はそういうの、嫌だな」
そして真顔
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