それから数分間、二人はその体勢のまま動こうとしなかった。射精が終わり、膣内に溜まった精液がすっかり冷えきった後も、二人はただ互いの顔をじっと見つめたままだった。
「……」
大好きな人と繋がっていられる。そのこと自体に、二人はこの上ない幸せを感じていた。何も悩まず、何も考えず、ただ愛する人のことだけを想っていられる。そのことを再認識し、エバと男は共に歓喜の海を漂っていた。
力いっぱい泳ぐのではない。ただ手を繋ぎ、二人揃って水面を漂う。相手の体温を感じながら、無心で喜びに浸る。魔物にならなければ到底味わうことの出来ない、この上ない贅沢。
堕ちて良かった。仲良く時間を浪費しながら、一対の雌雄は同じことを思った。
「ねえ」
やがてエバが声をかける。すぐに男が反応し、どうしたんだと声を返す。
「そろそろ、あがろっか」
そこには様々な意味が込められていた。エバはそれを説明しなかったし、男もそれを全て理解していた。
だから男は何も言わず、ただ頷いた。そして無言で起き上がり、エバも同じタイミングで男の上から退いた。
二人の結合が解かれる。すっかり萎れた肉棒が露わになり、エバの割れ目から冷めた白濁液がごぽりと零れ落ちる。
「可愛くなっちゃったね」
それまでの怒張が嘘のように小さくなった男の分身を見て、エバが愉しげに声をかける。男はそれに頷き、間髪入れずにエバに語りかける。
でも、またすぐエバが硬くしてくれるんだろ?
「もちろん」
エバが即答する。彼女は浴室から出た後も「する」つもりだった。
男は驚かなかった。彼も同じ魂胆だったからだ。
こんなものでは全然足りない。それは二人の共通認識だった。
「次は君がリクエストしていいよ」
その認識の下に立ち上がりながら、エバが男に言い放つ。同じように自分の足で立ちつつ、男がいいのかと驚いた声を上げる。
立ち上がった男の手を取り、エバが頷く。
「さっきは僕の我が儘を聞いてもらったからね。次は君の番。なんでも注文していいからね」
そしてそう言って、不敵に笑う。男を惑わせる小悪魔の笑み。
案の定、男には効果抜群だった。心の底から愛している分、その誘惑効果は他の男性よりも強烈に作用した。
早速男が動く。腰を落とし、小声でエバに耳打ちする。
「えっ?」
それを聞いたエバが一瞬きょとんとする。そしてすぐ我に返り、しげしげと見上げながら男に尋ねる。
「本当にそれでいいの?」
その問いに、男が首を縦に振る。エバは「ふうん」と唸り、ニヤニヤ笑いながら再度男に声をかけた。
「僕じゃないと満足出来ないんだ?」
意地悪な質問だった。男は声を詰まらせ、それでもまた首肯するしかなかった。
彼のリクエストは実際その通りの内容だったからだ。
エバ本人としたい。
それが男の注文だった。特定の衣装を着て演技をするエバではない、「いつものエバ」とセックスがしたい。男はそう彼女に言ったのだった。
当初の目的から大きく逸脱したお願いだった。コンセプト無視にも程がある。しかしエバは渋ることなく、それを受け入れた。寧ろ男が「本来の自分」を求めてくれたことに感動し、心の中が喜びでいっぱいになったほどだった。
「そこまで期待されたら、僕も頑張らないとね! いつも以上に気持ちよくさせてあげる!」
なのでエバは、いつも以上に気合の入った姿を見せた。閉め切られた浴室の中でエバの声が気持ちよく反響し、それが男の心を期待で膨らませた。
その男の手を、唐突にエバが握る。
「それじゃ、早く出よう! 続きはベッドで!」
そして元気よくエバが言う。男もそれに同意し、二人仲良く浴室を出る。
数秒後、迷いのない足取りで二人がベッドインする。最初にエバが仰向けに寝転び、その上から男が覆い被さる。
当然ながら、二人は全裸である。二つの裸体が一つに重なり、互いの吐息と体温が互いを暖め合う。
「君の体、いつ触ってもぽかぽかだね」
いつものように裸で抱き合いながら、エバが嬉々とした声で告げる。男はそれに気を良くし、もっとあっためてあげると言ってエバの背中に両手を回す。
「じゃあ、僕も」
会わせてエバも両手を動かす。二人同時に互いの背中を掻き抱き、二つの体をさらに密着させる。
エバの乳房がふにゃりと潰れ、柔らかな感触を胸板越しに伝えていく。すっかり元気を取り戻した肉棒がエバの裸身をなぞり、彼女の心をゾクゾク震わせる。
「あんっ……もう、準備万端って感じかな」
肉棒の感触に身震いしながら、エバが小声で話しかける。男もそれに同意し、そのままそっとエバの顔に自分の顔を近づける。
男が何を求めているのか、エバはすぐに理解した
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