オトメ対戦

 松田隼人は苦悩していた。片想いの相手から無理難題を言い渡され、どう解決しようかと四苦八苦していた。
 あまりにも高難易度。無茶振りにもほどがある。故に彼は懊悩していた。お題を出されてから二時間経つが、未だに具体的な解決策が浮かんでこなかった。
 
「なるほど。だから私にアドバイスを求めようとしたってわけだね」

 そして二時間後、隼人は昼休みを利用して図書室に顔を出していた。そこで彼は自分と同じクラスの図書委員、ラタトスクのマリーに救いの手を求めようとしていた。
 いくら自分一人で考えても埒が明かない。ならば腐れ縁の知恵袋に助けてもらおう。彼はそう思ったのだ。
 
「しかしまあ、君も大胆なことするね。ラタトスクに色恋沙汰の話を持ち込んでくるなんて。どうぞ学校中にこの話題を広めてくださいと言っているようなものだぞ」

 だが隼人は、この己の選択を悔やんでもいた。何故なら彼はこのマリーなる魔物娘が、一筋縄ではいかない娘であることを知っていたからだ。
 とにかく意地が悪い。一言多い。控え目に言って、いい性格をしている。頭は切れるし悪党でもないが、捻くれている。厄介なことこの上ない。
 
「ちょっとそこの君、私と一緒にこの本を図書室まで運んでくれないか? 報酬は出さないが、感謝はしてやるぞ。ありがたく思うがいい」
 
 第一、初顔合わせの際にマリーが放った台詞がこれである。清廉潔白とは程遠い。
 ともかくそんな二人が友人同士になって一年が経つ。何故友人関係を築けたのか未だに不可解だが、不思議とウマが合ったのだ。そしてその間の触れ合いを通じて、隼人はマリーの人となりを嫌と言うほど理解したのであった。
 ラタトスクという種族はみんなこうなのだろうか? 彼女の言動を垣間見る度に、隼人はそう思わずにはいられなかった。
 
「ふふん、まあ今回は許してやろう。我が友の赤裸々な恋愛事情を直々に聴くことが出来るんだ。それだけでも十分儲けものというものだよ」

 案の定、今日も彼女は絶好調だった。その「恋愛事情」で悩む隼人を見て、マリーは愉快そうに笑みを浮かべながらそう言ってのけた。明らかに楽しんでいた。そこに他人の色恋を嘲笑するような邪念が混じっていない分、余計に質が悪い。今ここに自分達以外いない分、余計に本性を発露しているのかもしれない。
 そもそも恋愛を蔑む魔物娘がいるのだろうか。隼人は心の片隅でそんなことを思ったりした。魔物娘が現代社会に溶け込んで十年が経つが、未だに隼人にとって魔物娘は未知の事象であり続けていた。
 
「それでそれで? 具体的には何を言われたのだ? 前後の成り行きも含めて、このマリー様に包み隠さず話すがいい。それと嘘は言ってくれるなよ? もし嘘を言ったりしたら、その時は君が恋人の写真を使ってオナニーしたことを、君の恋人に暴露してやるからな」

 アンノウンがニヤニヤ笑って催促してくる。やっぱりこいつに話を持ち掛けるんじゃなかった。隼人は何度覚えたかもわからない後悔の念に苛まれた。
 しかし他に頼れる者がいないのも事実だった。こんな突っ込んだ話が出来るのは、彼女以外にいない。
 
「……休み時間の時に先輩から言われたんだよ。自分をドキドキさせてみろって」

 意を決して隼人が口を開く。直後、マリーは茶化すのを止め、真面目な顔つきでそれに聞き入る。
 隼人が話を続ける。
 
「ほら、俺と先輩がその、恋人同士になって、三ヶ月経つじゃん」
「君の片想いの相手は仮恋人と言っていなかったか? 告白をするにはまだ早いとか、真の恋人関係になるにはまだ成熟が必要だとか言われたとか、相談された気がしたが……」
「うるさいな。確かにそうだけどさ……」

 隼人が渋る。マリーの言う通り、隼人はその「恋人」に対して、まだ告白もしていなかった。デートもまだである。

「とにかくそれで、知り合って時間も経ったし、そろそろ次の段階に進むべきだって先輩から言われてさ」

 そこで隼人が言葉を切る。視線を上げ、恐る恐るマリーの顔を見る。
 テーブルを挟んで相対していたラタトスクは、真面目な顔でこちらを見つめていた。これだから彼女は信頼できる。
 
「続けて」

 茶化すことなくマリーが催促する。頷いて隼人が再開する。
 
「それでその、次に進むための試練ってことで、あんなこと言われたんだよ」
「最初に言っていた、無理難題と言う奴だな」
「ああ」
「内容を教えてくれ。彼女は君に何を求めているんだ」

 マリーの言葉を聞いて、隼人が生唾を飲み込む。数瞬後、隼人が口を開く。
 
「自分を恋人としてドキドキさせてほしい。ときめかせてほしいって言われたんだ」
「ドキドキ、とな」
「うん」
「それだけ?」
「いや、条件が一つ」
「聞かせてくれ」

 マリーの言葉に隼人が答
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