第七話

「もう心配しなくていいの」

 二人の過去が語られた後、間髪入れずにヴァイスの甘い声が響く。この時シルバとレモンは――空気を読んで――既におらず、ヴァイスとミラとクランだけが、その甘ったるい空気に包まれた部屋の中に佇んでいた。
 そして背後からミラを抱き締めつつ、ヴァイスが優しい声で諭す。
 
「ここでなら全てが許される。王と従僕も、母と息子も、全て平等に愛し合うことが出来る。何も恐れなくていいの」
「……」

 ミラの体が一瞬強張る。クランは何も言い返さず、ただ椅子に座って俯いたままだった。
 そんな二人を交互に見ながら、ヴァイスが続けて口を開く。
 
「だからもう抵抗しないで。全てを受け入れて、快楽に身を委ねるの。魔力の奔流をその身に浴びて、私と同じ存在になるのよ」
「それは……」

 過去語りの間に体力を回復したミラが、渋る声を発する。それから彼女は恐る恐ると言った感じで顔を上げ、目の前にいるクランをそっと見つめる。
 配下の視線に気づいたクランが顔を上げる。二人の視線が重なり、揃って顔を真っ赤にする。
 二人の初心な反応を見たヴァイスが、クスクス笑ってクランに話しかける。
 
「王子様はどうなの? この騎士様と恋仲に戻りたい? それとも、いつも通りの関係でい続けたい?」
「えっ」

 いきなり問われたクランは狼狽した。しかし少しの逡巡の後、視線をヴァイスに移し替えてクランが答える。
 
「……戻りたいです」

 短いが、確かな意志の秘められた回答だった。ヴァイスは満足そうに頷き、ミラを抱き締める力を強める。
 ミラの体が不安と恐怖で再び強張る。そのミラの耳元で、ヴァイスが囁く。
 
「あなたはどう? 愛する王子様と、もっと気持ちよくなりたい?」
「私は……」

 卑怯だ。
 そう言われて、拒絶できるわけがない。
 
「私のことは好きなだけ軽蔑してくれて構わないわ。私はただ、あなた達を元の鞘に収めてあげたいだけなの。そのためならなんだってするわ」

 ミラの心の声を見透かしたかのように、ヴァイスがミラに言った。
 ごくり。騎士が生唾を飲み込む。クランの視線がミラに刺さり、二人の眼差しが再び重なる。
 
「僕はしたい」

 なおも戸惑う騎士に、王子が率直な言葉をぶつける。
 ヴァイスに操られての発言ではない。自分の、心からの言葉である――ミラの痴態とヴァイスの魔力に中てられた結果であることは否定しない。
 そしてミラもまた、その心が激しく揺らぎ始めていた。
 
「許されるなら、僕はもう一度、ミラと一つになりたい」
「王子……」

 ああ、やめてください。
 そんな目で私を見ないでください。
 燃え尽きたはずの心が再び燻り始める。封じ込めたはずの欲望がぬたりと起き上がる。
 
「僕は、あなたが好きです」

 椅子から立ち上がり、クランがミラの下へ歩み寄る。ベッドの縁に片膝をかけ、己の顔をミラの顔に近づける。
 
「あなたをもう一度、僕のものにしたいです」

 愛する王子の気配を間近で感じる。クランの体温とクランの吐息を、その裸身で受け止める。
 再び自分を求めてくれている。そのことへの悦びが体中を満たしていく。それだけで絶頂してしまいそうになる。

「クラン様……っ」

 心の壁が音を立てて崩れ去る。なけなしの理性が崩壊し、純粋な想いだけが後に残る。
 
「私も……ほしいです」

 その想いを言葉に乗せる。部下の返事を聞いたクランが顔を輝かせ、ミラの背後にいたヴァイスが愉しげに笑う。
 
「お互い、心は決まったみたいね」

 そして楽しげに問いかける。クランはヴァイスを見たまま、ミラは前を向いたまま、揃って首を縦に振った。ミラのそれはクランに比べて若干小さく、まだ躊躇いのある動きだった。
 それでいい。むしろそれでこそやりがいがあるというもの。ヴァイスは心の中でうそぶいた。そして彼女はミラを抱き締めつつ、その耳元で一つの宣言をした。
 
「それじゃあ、始めましょうか」

 何を始めるのか、ヴァイスはわざわざ口に出すことはしなかった。ミラとクランも、あえてそれを尋ねたりはしなかった。
 その代わり、クランが不安そうな表情でヴァイスとミラを交互に見た。ヴァイスは穏やかな顔で「何も心配しなくていいわ」と告げ、それに同調するようにミラも頷いた。
 
「ただその、優しく頼む」

 しかしてその直後、ミラが前を見ながらヴァイスに注文をつける。いきなりそう言われたヴァイスは一瞬目を点にした後、すぐに表情を崩して「大丈夫よ。痛くなんてないわ」と声をかけた。
 
「絶対気持ちよくしてあげるから。約束よ」

 そしてそう続けた後、ミラの裸身に手を這わせる。くびれた腰や筋肉で強張った腕を、サキュバスの白く細い指が滑るように這い回っていく。
 思わ
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