「そういうわけなので、今日であなた達を堕とすことに決めたから♪」
クランとミラに宛がわれた広大な部屋の中に、ヴァイスの陽気な言葉が響く。それを聞いたクランは何も言えず、ただ目を点にして眼前の光景を見つめるだけだった。
その彼の視線の先にいたミラは、顔を真っ赤にして俯くばかりだった。敬愛する王子に今の自分の状況をみられるというのは、まさに恥辱の極みであった。
「はいはーい。動かないでくださいねー。じっとしてなきゃ駄目っすよー」
「強引とは思うが、恨んでくれるなよ? 元はと言えば、素直になれないそなたらが悪いのじゃからな」
そのミラの両脇に、二人の魔物娘が陣取っていた。件の銀髪のサキュバスと、バフォメットのレモンである。二人の魔物娘は仮面を着けた騎士の腕にがっしりしがみつき、相手が逃げられないよう万全の構えを取っていた。いかにミラと言えど、全力を出した魔物娘二人の膂力には逆らえず、その場に釘付けにされてしまっていた。
更に言うと、ミラの背後にはヴァイスがいた。彼女は両腕を前に回してミラの首を絡めとり、彼女の背中に全身で寄りかかっていた。先の発言も、ミラの耳元で放たれた言葉だった。彼女が第三の拘束具と化していたことは言うまでもない。
そうして拘束されたミラと、彼女を縛り付ける魔物娘三人衆は、仲良くベッドの上を占拠していた。クランは椅子に座らされ、その光景を見せつけられている格好となっていたのだ。
「いったいどうして? なんでこんなことするんですか?」
困惑しきりにクランが口を開く。彼が戸惑うのも当然だった。何故なら最初の「仕事」を終えて夕食も済ませ、二人一緒に部屋でくつろいでいたところに、何の前触れも無しにヴァイス達が突撃してきたからである。
乱入してきた魔物娘達は理由も告げず、最初にクランを椅子に座らせた。魔力を使い、尻と椅子が離れないように一工夫加える徹底ぶりである。そして次に狙いをミラに移し、三人がかりで彼女を取り押さえ、ベッドの上まで連行していった。
ほんの数秒の出来事である。質問を差し挟む余裕も無かった。
「僕達、何かいけないことでもしたんですか?」
だからクランは、ここで初めて疑問をぶつけることが出来た。そして魔物娘達は、そんな王子からの疑問に対して真顔でこう答えた。
「別にお仕置きするつもりは無いわ。私達はただ、あなた達の関係を進展させるためにやってるのよ」
気づきなさいな。ヴァイスが呆れた声で告げる。クランはまだ理解できずにいた。
「好きなんでしょう、彼女のこと?」
そんなクランに、ヴァイスが直球を投げかける。図星を突かれて驚愕するクランを尻目に、ミラの頬を指でつつきながらヴァイスが続ける。
「でも色々複雑な事情が重なって、彼女に告白できずにいる。全部レモンから聞いたわ」
そこまで言って、ヴァイスが隣にいたバフォメットに視線を向ける。主から見つめられたレモンは特に悪びれる素振りも見せることなく、「すまん。全部喋ってしもうた」とクランに暴露した。
クランの体が石のように固まる。ついでにクランの心を知ったミラも、同様に体を硬直させる。二人の反応を楽しみながらヴァイスが言う。
「恋に生きるサキュバスとしては、そういうまどろっこしい状況って好きじゃないのよね。だからこうして、悩める二人に愛する喜びを教授しようとしているわけ」
「恋のキューピッドってやつっすね」
「ただのお節介じゃよ」
ヴァイスの発言に銀髪のサキュバスとレモンがそれぞれ合わせる。クランとミラはそこでようやく、彼女達が何をしにここまで来たのかを理解した。
そしてまた別の疑問に行き当たる。それに関してミラが質問する。
「私と王子をくっつけたいということか……。それで? お前達はどうやって我々を、その、恋仲にさせるつもりなのだ?」
心底呆れた調子で――しかし途中明らかに動揺しながら、ミラがヴァイスに食って掛かる。一方のヴァイスはさして動揺はせず、淡々とした口調でミラに返答する。
「セックス漬けにして快楽無しじゃ生きられないようにするの
#9829;」
城主サキュバスが満面の笑みで言ってのける。ミラとクランが揃って顔から血の気を引かせていく。
直後、銀髪のサキュバスとバフォメットが示し合わせたように動き始める。二人してミラの衣服――まだメイド服を着用していた――に手を掛け、慣れた手つきでそれを脱がせていく。
「貴様ら! やめろ!」
即座にミラがそれに反応する。しかし彼女が抵抗しようと動き始めた刹那、ヴァイスが自分の頬とミラの頬を擦り合わせる。
「駄目よ、動いちゃ」
そしてそれだけ言って頬を離し、舌でミラの頬を優しく舐める。暖かく、湿ってザラついた感触が頬を滑る
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