ブラッドドボーン

「あなたの血が吸いたい」

 ダンピールのリナは、まったく唐突にそう言った。深夜零時。リナと、テーブルを挟んで座っていた男の二人きりで、晩酌を楽しんでいた時のことである。
 
「お酒もいいけど、やっぱり血が飲みたい。具体的に言うとあなたの血が欲しい。ねえジョージ、いいでしょ?」

 リナは少し赤らんだ顔を見せながら、男に向かって恥じらいも無く言ってのけた。それから彼女は、自らジョージと呼んだ男に向かってニヤリと笑いながら、持っていた酒瓶を彼に突き付けた。
 ジョージはリナが何をしたいのかをすぐに理解した。彼は何も言わず、持っていたグラスをその酒瓶に近づけた。
 
「別に俺は構わないけど、いいのか? お前、俺の血を飲むと悪酔いするだろ」

 瓶が傾き、自分のグラスに黄金色の液体が注がれていく。それを見ながら、ジョージがリナに確認を取る。一方でジョージのグラスに酒を注ぎ終えたリナは、次に自分の持っていたグラスに同じ酒を注ぎながら、そう問うてきた幼馴染兼恋人に対して言ってのけた。
 
「いいじゃない、酔ったって。好きな人の血で酔っ払えるなんて、素敵なことだと思わないかしら?」

 完全に開き直っていた。リナは楽しそうに微笑み、ジョージは恋人に見つめられて恥ずかしげに苦笑した。そして互いに笑いながら、グラスに入った酒を一息に飲み干した。
 穏やかな空気が二人を包む。好きな人と酒を飲むのは、やはり格別だ。二人はグラスを空にしてから一息つき、共にそう思った。
 
「それにね」
 
 そうして余韻に浸っていると、不意にリナがその緋色の目を怪しく輝かせ、まっすぐジョージを見つめてきた。視線に気づいたジョージがリナに目を向けると、そのジョージの青い瞳を覗き込みながらリナが言った。
 
「それにどうせ酔うなら、お酒じゃなくて血の方がいいわよね♪」
「そういうもんなのか」

 人間のジョージには、その感覚がまだよくわからなかった。そして視線を逸らして空のグラスを眺めながら、彼はしみじみとリナに言った。

「お前も好きだな。血ってそんなに美味いのか?」
「ちょっと違うわね。あなたの血だから美味しく感じられるのよ。他の人の血なんて、まずくてとても飲めないわ」
「ふ、ふーん、そうなのか……」
 
 ジョージはどこか嬉しそうだった。例えそれが血液であろうと、絶世の美女に「あなたのだからいいの」と言われて、喜ばない男はいないだろう。
 
「だから、ね? いいでしょ? 首筋ちゅっちゅさせて? ねっ?」
 
 リナが甘えるように血をねだる。ダンピールのリナは、そんな己の吸血衝動を抑え込もうとはしなかった。
 既にそれに屈していたからだ。
 
 
 
 
 彼女が「敗北」したのは一年前、ジョージから告白を受けた時だった。想い人から告白を受けたリナは、嬉しさのあまり心中で燻っていた吸血衝動に火をつけてしまった。火がついた衝動はあっという間に燃え上がり、魔物の本能が人間の理性を凌駕するのに大して時間はかからなかった。
 ジョージが身の危険を感じた時には手遅れだった。リナは愛欲に任せてジョージを押し倒し、その首筋に鋭い牙を突き立てたのだ。欲望に屈した、衝動に負けたという人間らしい後悔は、ジョージの血の味を覚えた時点で吹き飛んだ。吸血を終えた後、感情のままにセックスを始めたのは言うまでもない。
 
「じゃあ早速、ちゅっちゅするね♪」
「ああ、いいぞ。今日も首からか?」
「うん♪ ちゃんとこぼさないように飲むから、安心してね♪」
「……お前、血が欲しい時になると本当キャラ変わるよな」
 
 そしてこれ以降、リナの精神バランスは完全に崩壊した。半人半魔でありながら魔物の価値観と本能が優先されるようになり、良い意味で言えば「素直」になった。リナは吸血欲求を隠さなくなり、さらに彼女は血を飲むほどに理性と良識を失っていった。ただ愛する者とのセックスのみを求める、淫らな獣へと堕ちていったのである。

「あんまり飲みすぎるなよ?」
「わかってまーす。えへへー♪ ジョージ、だーいすきっ♪ かぷっ♪」

 その姿は、まさに血に酔うようであった。ジョージはそんなリナを、純粋に可愛いと思った。少なくとも衝動に負けて魔物側に転落したこのダンピールを、意志薄弱と弾劾するようなことは一度もしなかった。好きな人に求められて悪い感情を抱く奴など、この世にいるのだろうか?
 
「ん、ちゅうううっ……」

 首筋に歯を突き立て、ジョージの血を飲み込む。赤い液体が喉を通り、愛しいジョージの命の鼓動が全身に染み渡る。
 体の中にジョージが入っていく。愛するジョージに内側から征服される。その事実が、リナに途方もない幸福感を与えた。脳味噌に甘い電流が走り、思考をどろどろに溶かしていく。股間から愛液が迸り、お漏らしを
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