西暦200X年。大陸南西部に位置する大都市「エビルシティ」は、一人の犯罪者の影に脅かされていた。
彼女の名はMs.ダンテ。自ら開発したハイテクマシーン軍団を引き連れ、悪事の限りを尽くす極悪非道のグレムリンである。
「ヒャッハー! 今日もいただきに来たぜえ!」
そしてこの日も、Ms.ダンテによる犯罪が勃発していた。時刻は午前十一時。今日の獲物は町一番の巨大スーパーマーケット。
彼女は白昼堂々トラックをきちんと駐車場に停め、自動ドアのガラスを割らずに開くのを待ってから、手製のロボット軍団を引き連れずかずか店内に乱入してきたのである。
二本足で動くロボットに蜘蛛型ロボット。キャタピラ駆動のロボットや八本腕のロボット。そういった多種多様なロボット達が、一人のグレムリンに引き連れられて店内へ侵入する。その大軍団を前に、それまで呑気に買い物を楽しんでいた客達が驚いたのは言うまでもない。
「動くな! お前ら全員人質だかんな!」
一斉に悲鳴を上げ、逃げ惑う客――人と魔物娘が半々ずつ混ざり合っていた――とスタッフをMs.ダンテが一喝する。さらに追撃するかのように、腰に提げていた銃を引き抜き天井に向かって発砲する。なお空砲であるため、実際に天井に穴が開いたりはしなかった。器物損壊で弁償する羽目になるのは勘弁である。
それはともかく、発砲の効果は覿面であった。それまで慌てふためていた面々が一瞬で黙り込み、動きすらも止めてその場に静止する。Ms.ダンテはそんな彼らに座るよう手振りで指示を出し、人質と化した者達も素直にそれに従っていく。
「いいねえ。中々素直じゃねえか。素直なのはいいことだぜ?」
その様を見たMs.ダンテが嬉しそうに声を放つ。その後彼女は銃をしまい、仁王立ちの体勢を取りながら声高に言い放つ。
「さてお前ら。さっきも言ったが、お前らは人質だ。一人たりともここから出ることは許さない。私の用事が済むまでここから出るんじゃねえぞ。もし一人でも逃げ出そうものなら……」
にやけ面のグレムリンがそこまで言って、おもむろに指を鳴らす。すると後ろに控えていたロボットの一体が移動を始め、Ms.ダンテの横まで来たところで停止する。
そのロボットは、簡単に言うとキャタピラのついた白い円柱だった。真っ白に染められた円柱の側面部分にはモニターやカメラアイが不規則についており、そしてそれらに混じって無骨なロボットアームが左右一対ワンセットで側面から生え伸びていた。
なおそのロボットアームの先端には、「手」の代わりに大量の猫じゃらしが装着されていた。
「くすぐりの刑を受けてもらう。もちろん私の気の済むまでな。泣いて許しを請おうが無駄だ。ヒイヒイ泣きながら、自分のしたことの罰をしっかり受けてもらうぜ?」
Ms.ダンテが不敵な笑みで言ってのける。それに呼応して円柱ロボットがロボットアームを駆動させ、猫じゃらし部分を激しく揺らめかせる。
直後、人質達がやにわにざわめき始める。
「猫じゃらしで笑えるのか?」
「鼻に突っ込むのかな」
「おっぱいくすぐるとかじゃないか」
「やだもー、ダーリンのえっち!」
純粋な疑問と思案がどよめきの核だった。中には冗談や笑い声も混じっていた。緊張とは無縁の情景であった。
町の住民にとってはもうお馴染みの光景だ。
「ねーねードミニク! サインちょうだい!」
「馬鹿! 本名で呼ぶんじゃねえよ! ヴィランネームで呼べ!」
買い物客の子供たちが集まってくる。Ms.ダンテが鬱陶しげに言い返しながらも、彼らの差し出してきた色紙にサインを書いていく。
殺到した子供は五人。色紙も五枚。彼女はその全てに名前を書いた。書くのは当然「悪役の名前」だ。そうしてサインをもらって喜ぶ子供たち追い払った後、指を鳴らして他のロボットたちに指示を出す。
「まあそう言うわけだから、お前らにはじっとしててもらうぜ。なに、ほんの数分だ。すぐに帰れるぜ」
数十ものロボット達が人質を取り囲み、その包囲を狭めていく。彼らは人質を一か所に纏めようとしていた。そして人質達も恐怖のままに――大半は面倒くさそうに――ロボットの無言の要求に従っていった。
彼らが集められたのはレジ前の一角だった。入口からは丸見えとなる位置である。そこにMs.ダンテが悠然とした歩調で近づいていく。人質の二割がそれを目で追い、残りがスマートフォンなり携帯ゲーム機なりをいじって暇を潰す。行き過ぎた迷惑行為は訴訟沙汰になりかねないので、妨害電波の類は使っていない。
やがてMs.ダンテが一人の男の前で立ち止まる。このスーパーの責任者であるその男を見下ろしながら、Ms.ダンテが口を開く。
「ここってカード使える?」
「現金だけだよ」
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