「バトル!」
アンの無慈悲な宣告が響き渡る。アポピスが会心の笑みを浮かべ、ファラオが表情を強張らせる。
そのファラオを指差しながら、アンが声高に命令を放つ。
「アポピスでファラオを攻撃! これで終わりです!」
「応ッ!」
漆黒の蛇が意気高く答える。その後アポピスが姿勢を低め、腰から下をくねらせながら這うようにしてフィールドを素早く駆け抜けていく。
アポピスがファラオの眼前に迫る。即座にアポピスが身を起こし、鬼気迫る表情で互いに睨み合う。
「悪いな。今回ばかりはわらわの勝ちだ!」
「アポピス……ッ!」
零距離でアポピスが勝利を告げる。悔しさを滲ませながらファラオが返す。
直後、アンが即興で思いついた技名を言い放つ。
「行きなさいアポピス! アブソリュート・ヴェノム!」
「終わりだ!」
アポピスは空気の読める魔物娘だった。アンの命名センスに突っ込むことはせず、彼女の望むままに行動を起こす。
長い尾でファラオの腹を縛り、右手でファラオの顔面を鷲掴みにする。
「アブソリュート・ヴェノム!」
復唱するかのようにアポピスが叫ぶ。こういうのも中々に面白い。この時アポピスはそれに対してほんの僅か快感を覚えたが、同時に彼女はそれを墓の下まで持っていくことに決めた。さすがにこれは子供っぽいにも程がある。ファラオにバレたらそれこそ恥辱の極みだ。
その間コンマ一秒。彼女がそこで思考を打ち切ると同時に、ファラオを掴んだ右手から漆黒の魔力が放出される。それは快楽や堕落とは無縁の、純粋な破壊のエネルギーだった。
アポピスは本気でファラオを討ち滅ぼそうとしていた。
「滅びるが良い! ファラオ!」
「リバースカードオープン!」
サイスが叫ぶ。アポピスとアン、そして観客の耳にそれは届かなかった。アポピスの放つ魔力の奔流が間欠泉の如き大音量で鳴り響き、彼の声をかき消したのだ。もっと言うとファラオを襲う魔力の波が彼女の背後にいたサイスをも覆い隠し、それによってカードの開閉すらも衆目から隠してしまったのである。なおアポピスの放つ破壊のベクトルは全てファラオに向けられていたので、サイスがとばっちりを食うことは無かった。
閑話休題。よってサイスが伏せカードを発動させたことに周りが気づいたのは、アポピスがあらかた魔力を出し終えて満足げにファラオから手を離した直後だった。
「ふう。わらわの勝ちだな」
「くっ……」
アポピスの攻撃を凌いだファラオが苦虫を噛み潰したような顔でその場で片膝をつき、それを見降ろしながらアポピスが勝利を確信する。そしてこの時、ファラオが姿勢を低めたがために、アポピスは何の障害も無しにサイスの姿を視認することが出来た。
故にアポピスが一番最初にそれに気づく。続いてサイスの側の墓地にいた面々が気づき、次にアンの側と観客達がそれを視界に納める。
真っ先にアポピスがそれに反応する。
「なんだ。貴様何をした?」
「二人が戦闘を始めた直後に、こいつを発動させてもらったんだ」
そこまで言って、サイスが自ら発動させたカードに視線を移す。そこには薄暗がりの部屋の中、ボンテージ姿のダークエルフに向かって土下座しながら、何かを必死に請う全裸の男の姿が描かれていた。誰が何について懇願しているのか、サイスは考えないことにした。
それを見ながら、そのカード名を声高に宣言する。
「罠カード、『泣きの一回』! バトルが行われた際に発動することが出来る罠カードだ。こいつの効果はその戦闘によって生じるモンスターの破壊を無効化し、戦闘によって生じたダメージを計算した上で、再び同じ戦闘を行うことが出来る!」
「戦闘をやり直しする効果だと?」
効果を聞いたアポピスが驚く。周りの面々も殆ど同じ反応を見せる。
その後、アンが訝しむように首を傾げてサイスに尋ねる。
「ですがそれだと、やり直しても結局ファラオが破壊されて終わりですよね。何かまだ切り札があるので?」
「もちろんあるとも。だがまずは処理だ。このカードの効果でファラオの破壊を無効化し、ダメージ計算を行う」
サイスの言葉に合わせて、彼のライフポイントが300ポイント減少する。それを見てから、サイスが改めて説明を行う。
「そしてその後、もう一度バトルを行うのだが……俺はここで、ファラオの効果を発動させてもらう!」
「なに!?」
アンが驚いてみせる。決して「演出」ではない。ファラオが効果モンスターということを初めて知り、本気で驚いていた。
そのアンに向かってサイスが言葉をぶつける。
「ファラオの効果発動! このカードは相手モンスターと戦闘を行う際、一回だけ自身の攻撃力に守備力を加えることが出来る!」
「えっ!?」
ファラオが真っ先に
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