共に景気よく宣言をした後、サイスはそこで初めて手札のカードを確認した。予想はしていたが、手にあったカードは彼の普段触っているカードとは全く異なるレイアウトをしていた。
「なるほど、こうなっているのか」
まず驚いたのは、様々な色のカードが混在していることだった。明るい茶色や焦げ茶色、赤に緑と、実にカラフルであった。もっともカードごとに変わっていたのは色だけで、カードの構造自体はどれも一緒だった。
一番上の細長い枠にカード名。真ん中の一番大きな枠にカードイラスト。そして最下段の枠に説明文。全てのカードがその体裁を取っていた。例外は一つも無かった。
「いかがですか? トランプとは色々異なるでしょう?」
アンの声が聞こえてくる。サイスは一旦カードから目を離し、両目を輝かせながら頷いた。
「ああ。こんなカードゲームは見た事ない。どうやって遊ぶのだ?」
「ちゃんと説明しますから大丈夫ですよ。まずは簡単なゲームの流れからお話ししましょう」
そしてサイスに促されるまま、アンはそれぞれのターンに出来ることなどを簡単に説明した。それだけでも相応の情報量があったが、サイスはそれら全てを貪欲に吸収していった。
ことゲームにおいて、彼の記憶力と適応力はバケモノじみたものを誇っていた――そうでなければ、一流ギャンブラーなどという肩書がつくことは無かっただろう。
「では私が説明した通り、まずはモンスターを召喚してみましょう」
一通り説明した後でアンが催促する。彼女に言われるまま、サイスがモンスターカードの一枚を引き抜く。モンスターカードには名前とイラストの枠の間に星のアイコンが記されており、それが四つ以下のものはカードそのものに特別な条件が設定されてない限り、ノーコストで召喚出来ることになっていた。
サイスが手に取ったカードは星三つの通常モンスターカード。ジャイアントアントと名付けられたカードだった。ゲームばっかりやっていて魔物娘に関心の薄かったサイスは、それがどんなモンスターなのかイマイチわからなかった。
「まあいい。とにかくやってみよう」
先程アンに言われた通りブーメラン部分の表面にある読み取り装置に、そのカードを置いてみる。アン曰く、これがこのゲームにおける「召喚」の手順らしい。
そうして指定された場所にカードを置いた次の瞬間、彼の目の前に突如として光の柱が出現した。驚いたサイスは反射的に一歩退き、それを見たアンは楽しげに微笑んだ。
「なんだ? 何が起きた?」
「ご安心を。魔物娘を召喚しているだけです」
「召喚?」
アンからの説明にサイスが問い返す。そしてそれにアンが答える前に、彼女の言う「召喚」が完了する。光の柱が砕け、粒子となって辺りに四散し、そうして散っていった柱の中から一体の魔物娘が姿を現す。
それは彼がブーメランの上に置いたカードのイラストと同じ姿をした魔物娘、ジャイアントアントそのものであった。
「モンスターが、実体化した?」
「えっ、えっ? あれっ?」
サイスが目に見えて狼狽する。一方光の中から顕現したジャイアントアントもまた、唖然とした表情で辺りを見回した。手に持ったショベルには土がつき、首から掛けていたタオルはしっとりと濡れていた。顔にも汗が滲み出ており、明らかに「作業中」であったことが見て取れた。
「なんで? なんでこんなとこにいるんだ?」
「おい、これはいったいどういうことなんだ」
明らかに狼狽えるジャイアントアントを見たサイスが、彼女と同じくらい困惑しながらアンに尋ねる。それに対してアンは微笑みを湛えながら、突然のことに戸惑う人間と魔物娘を交互に見つつ答えた。
「前にも申した通り、召喚したのですよ」
「だからそこを詳しく教えてくれ。具体的に何をしたんだ」
「召喚は召喚です。別の地域で活動している魔物娘を、その召喚器を通してこの地に呼び寄せたのですよ」
アンがそう言いながら、サイスの左腕にくっついている物体を指さす。サイスとジャイアントアントの視線が同時にそれに向かい、アンもまたそれを見つめながら言葉を続ける。
「ご安心を。代価として寿命が削れたり、血を要求したりはしませんので。さすがに初対面の方に闇のゲームみたいなことはさせられませんよ」
「つまりこの召喚器で、よそにいた魔物娘を無理矢理ここに呼んできたってことなのか」
「そうなりますね」
サイスの言葉にアンが頷く。サイスはそれを受けて「凄いこと考えるな」と呆れ顔を見せる。
「そういうわけらしいが、お前はどうなんだ? 迷惑だとか思ってないのか?」
そしてサイスは続けて件のジャイアントアントに視線を向け、彼女にそう問いかける。いきなりここに呼びだされたジャイアントアントは――当然なが
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