「こいつ、一番短いはずなのに一番濃い時間過ごしてるにゃ……」
「あれ? なんかこれ凄い有利取られてる?」
ヒスイの話を聞いた二人は、一様に戦慄した。男と過ごした密度で言えば、目の前のクノイチが最もスコアを稼いでいたからだ。
「な、なんか悔しいにゃ。私の知らない所で知らない奴が一番好感度稼いでたにゃ……!」
「そこまで悲観することではなかろう。実際に結果が伴った訳ではないのだからな」
しかし当のヒスイは、自分のしたことがそこまで大事であるとは認識していなかった。楓と涼香がなぜそこまで悔しがるのかすらわからずにいた。
「確かに我は、あの時彼と親しい時間を過ごした。だがそれが今後の展開でプラスに働くとは限らんだろう。向こうは当に我のことを忘れているかもしれないし、彼にしてみても、我との関係は一夜の気まぐれに過ぎぬのかもしれん。だからこの程度で浮かれることなど、我には到底できん」
ヒスイはどこまでも慎重だった。心配性とも言えた。しかしそんな油断も慢心も見せない彼女の姿は、余計にネコマタとアオオニの焦燥感を煽ることになった。
「その余裕、なんだか腹立つにゃ……!」
「ぐぬぬ……!」
「だからどうしてそこまでムキになるのだ? まだ本番が控えているというのに」
ヒスイはそう言って、ムキになる二人を尻目に件の家に目を向けた。残り二人もそれに続いて家の方に視線を寄越し、その中でヒスイが言葉を投げかける。
「大切なのはこれからだろう。我々がここにいる理由を思い出すのだ」
「そ、それは……」
「言われてみれば……」
そこまで言われて、楓と涼香は改めて自分達がここに何をしに来たのかを思い出した。そうだ、自分達はあの男に気持ちを伝えるためにここに来たのだ。
「本当の意味で心が伝わらなければ意味がない。真の戦いはこれからなのだ」
ヒスイが目を細め、覚悟を秘めた表情で告げる。楓と涼香もそれに続いて、表情を引き締め口を開く。
「そうだにゃ。今までの過程なんてどうでもいいにゃ。今ここで、アイツに気持ちをぶつけれられればいいんだにゃ」
「過去を振り返っても今は変わらない。なら、今全力を尽くすべきですよね」
楓が目を光らせ、涼香が眼鏡の奥で瞳を細める。ヒスイも二人の言葉に頷き、全身からやる気を漲らせる。今ここに、三人は確固たる決意を固めた。
やることはただの夜這いであるが。
「それで、どうしますか? 一人ずつ順番にあの家に入るので?」
そうして冷静さを取り戻した涼香が、改まった態度で二人に疑問を投げかける。一人ずつ男に告白するべきか、否か。彼女は同じ目的の元に集まった者達に対し、言外にそう尋ねていた。
それに対し、真っ先に反応したのは楓だった。三人の中で最も背の低かったネコマタは、首を横に振りながらアオオニの問いかけに答えた。
「正直まどろっこしいにゃ。もういっそのこと、三人同時に突撃しちゃった方がいいと思うにゃ」
「なに?」
「むしろ三人一緒にお嫁さんになるのはどうにゃ?」
「はあ?」
楓の提案に、涼香とヒスイが目を剥いて驚く。お構いなしに楓が続ける。
「二人が私と同じくらいアイツを好きになってたっていうのは、よくわかったにゃ。かと言って、私もアイツを諦めることなんて出来ないにゃ。だから誰か一人に独占されるくらいなら、皆の旦那さんにしてしまった方が、結果的にみんな幸せになれるんじゃにゃいかにゃ?」
「……」
涼香とヒスイは、揃って神妙な面持ちを浮かべて楓の持論に耳を傾けた。そして彼女が口を閉ざした後、表立ってそれを非難することもしなかった。
端的に言って、その提案はとても魅力的なものだったからだ。他者とうまく折り合いを付けつつ、自分の愛を存分にぶつけることが出来る。一夫多妻に全く抵抗を持たない彼女達にとって、それはまさに天啓であった。
「このまま誰がアイツの本妻になるかで争ってても、虚しいだけにゃ。いくら愛のためと言っても悲しいにゃ。だったらもう最初から、三人まとめてアイツの本妻になったほうがずっと平和的にゃ」
トドメとばかりに、楓が追い打ちをかける。アオオニとクノイチは共に呆然とした表情のまま、その場に立ち尽くした。
しかし彼女達の顔も、次第に腹を括ったような引き締まったものへ変わっていく。そして最初にヒスイが、次に涼香が、それぞれ楓を見ながら口を開いた。
「確かに。そなたの言う事にも一理あるな」
「言われてみれば、私達の間で無理に一番を決める必要もないんですよね。むしろ決めつけるだけ無駄なことです」
二人は共に、楓のハーレム案に賛同の姿勢を見せた。誰が本妻で誰が側室か、妻同士で優劣を決めて泥沼の争いに興じるのは人間だけである。
「よし、乗りましょう。私達全
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録