クロフェルル・サバトの一団が、件の古城へ向かった。
それが出向いて来たバフォ様の伝言内容だった。佑とグレイリアは、仲良く朝食を取っている時にそれを受け取ったのだった。
「それを伝えるためだけに?」
「うむ。今回の件はそなたらに深く関わり合いがあるからな。故にこうして、儂自ら来たわけじゃ」
困惑するグレイリアにバフォ様が答える。この時彼女は当たり前のように同席し、テーブルの上にある果物を平然と手に取って口にしていた。
口にしながら、その目は佑の方をじっと見つめていた。
「……っ」
佑は自然と背筋を伸ばしていた。眼前の幼女が放つ迫力に、彼は逆らうことが出来なかった。
「バフォ様。兄様で遊ぶのはやめてくれないか」
そこにグレイリアの助け舟が入る。バフォ様はケラケラ笑って視線を逸らし、佑はほっとしたように肩を降ろして息を吐いた。
いやあ、すまんすまん。安堵する佑の耳に、バフォ様の謝罪の言葉が飛んでくる。その口調は愉快げで、あんまり謝意は感じられなかった。
「ようやくグレイリアに兄が出来たと聞いて、儂も嬉しくなってな。ついはっちゃけてしまったのじゃ。許してくれい」
でも不思議と許せてしまう。明るく陽気なバフォ様の言葉には、聞く者の心を軽くさせる不思議な魅力があった。カリスマというものだろうか。佑はその魅力に完全に嵌っていた。
横からグレイリアのため息が聞こえる。白衣を着た妹がジト目でこちらを見つめてくる。
「どうせ私は可愛げのないバフォメットだよ……」
妹が愚痴をこぼす。いきなり言われた佑が反応に困って視線を泳がせる。二人を見たバフォ様が一際大きく笑い声を上げる。
「いいのう、いいのう! 甘酸っぱくてとても良い! これなら夜の方も問題なしじゃな!」
「茶化さないでくださいよ……!」
「茶化しておらん。儂は本気で言っておるぞ。愛する者同士が愛を交わすことは何より大事じゃ」
笑みを湛えながらバフォ様が断言する。佑は瞬時に顔を赤くし、グレイリアも何かを誤魔化すように咳払いをする。
たった一言で場の主導権を握る。恋愛関係の場数で言えば、こちらのバフォメットの方が何枚も上手だった。
「それより、ここでのんびりしてていいんですか」
気を取り直して佑が口を開く。純粋な疑問の念が半分、この場の空気を切り替えたい気持ちが半分あっての発言だった。
「他のサバトの人達が攻撃するって、かなり大事な気がするんですけど」
「それはそうじゃな」
「確かにその通りだ」
佑の問いかけに、二人のバフォメットが揃って同意する。困惑した佑が続けて問う。
まだ人間の感覚が残っていた。
「今更かもですけど、もっと警戒した方がいいんじゃ?」
「その心配はない。大丈夫だ」
「どうして?」
「クロフェルルの所だからな」
人間の問いに全てグレイリアが答える。横でそれを聞いたバフォ様も賛同するようにうんうん頷く。
グレイリアが続ける。
「彼女達に対抗できる人間はいないよ」
「うむ。あ奴らは妹の素晴らしさを直接ぶつけてくるからのう。耐えきれる人間はおらんじゃろうて」
バフォ様が同意する。直後、この二人が言うのだからきっとそうなのだろうと、佑の中にあった懸念が氷解していく。それだけ二人の言葉は自信と信頼に満ちていた。
「そういうわけじゃから、この話はここでおしまい。朝ご飯の続きと行こうではないか」
直後、バフォ様がさらりと言ってのける。即座にグレイリアの指摘が飛ぶ。
「ここにあるのは私と兄様の分だけなんだが」
「固いこと言うでない。ちょっとだけ貰ってもバチは当たらんじゃろ?」
「あなたにも兄君がいるだろう。早く帰ってやるべきではないのか」
「ふふーん。今日ここにいることは、我が兄には外出前に伝えておる。それに焦らした分だけ、精の味も濃くなるというものよ」
焦らすのもまた華である。よく覚えておくがよい。
バフォ様が言い返す。思わぬ反撃を食らったグレイリアは、そのまま顔を赤くして押し黙った。佑に関しては言うまでもない。
二人はまだ結ばれたばかり。性の話題には脆かった。
「そういうわけで、いただきますなのじゃー!」
結局この日は、バフォ様と一緒に朝食を取ることになった。拒否権は無かった。言いたいことは大なり小なりあったが、満面の笑みで果物を頬張るバフォ様を見ていると、その気持ちも霧散してしまった。
まったくずるい。二人はそう思うしかなかった。
二時間後。件の教団の拠点が陥落したとの報せが入った。攻撃を実行したのは案の定、クロフェルル・サバトの面々だった。
「本当にやっちゃった」
「ヤると決めたらヤるのが彼女達だ。過激派の通り名は伊達ではない」
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