姉をなのるもの

 僕にお姉ちゃんはいません。
 これだけはハッキリ言えます。僕は一人っ子です。少なくともこの家に、僕以外の子供はいません。ここに住んでいるのは、僕と僕の両親だけです。
 改めて言います。僕に、お姉ちゃんは、いません。
 
「レキくーん」

 お姉ちゃんはいない。
 
「レキくーん。お姉ちゃんですよー。入れてくださーい」

 でも、いる。
 
「あなたのかわいいお姉ちゃんが来ましたよー。いれてくださいなー」

 お姉ちゃんはいない。でもお姉ちゃんはいる。
 意味が分からないかもしれませんが、いるんです。正確には、自称お姉ちゃんがいるのです。
 年上の、とっても美人なお姉ちゃんが。
 
「レキくーん。レキくーん?」

 そして今まさに、その自称お姉ちゃんが家の前にいます。午前十一時。お昼前のことです。
 この「お姉ちゃん」は休みの日に僕が一人で留守番をしていると、必ずこうしてやってくるのです。ちなみに「お姉ちゃん」の存在を僕の両親は知っていて、僕のお世話を任せてもいます。狙ったように僕が一人の時に現れるのも、両親が事前にお姉ちゃんにお願いしているからです。
 要するに、お姉ちゃんは親公認のお姉ちゃんなのです。
 
「……どうしたんですかー? いれてー? いれてくださーい?」

 玄関のドアの向こうで、お姉ちゃんが声を上げます。とっても穏やかで柔らかい、ぽえぽえとした声です。僕に無視されていると思っているのか、ちょっと不安そうに上ずってもいます。それがまた可愛いのです。
 でもずっと無視するのも可哀想なので、そろそろいれてあげることにします。
 
「レキくん、お願い? お姉ちゃんを中にいれて? お姉ちゃんはね、一人だと寂しくて死んじゃうんですよ?」

 玄関前まで来たところで、お姉ちゃんがそんなことを言ってきます。意味がわかりませんが、可愛いので良しとします。
 あと本当に泣きそうなのでここまでにします。「聞こえてるよー」と声をかけつつ、ドアを開け、お姉ちゃんと対面します。
 
「くすん……レキくぅん……」

 手遅れでした。僕の目の前に現れたお姉ちゃんは、両目に涙をうっすら溜めていました。何度か鼻をすすり、涙がこぼれ落ちるのをこらえてもいました。
 申し訳ないことをしたな。それを見た僕は、素直にそう思いました。しかし同時に、いやらしい気持ちが胸の中でムクムク膨れ上がってもきました。「しぎゃくしん」をかきたてる、お姉ちゃんがいけないのです。
 
「おうち入ってもいいですか……?」

 そんな僕の葛藤をよそに、お姉ちゃんが再度聞いてきます。今度は意地悪せず、素直に頷きます。
 許可を得たお姉ちゃんが家の中に入ります。僕はお姉ちゃんが中に入ってからドアを閉め、その後お姉ちゃんに謝ります。
 
「ごめんなさい。慌てるお姉ちゃんが可愛くって、つい意地悪しちゃいました」
「もう、レキ君ってば」

 僕の正直な告白を聞いたお姉ちゃんが、笑みを浮かべながら僕の頭を軽くぽんぽんと叩きます。その動きに合わせて、お姉ちゃんのおっぱいも上下左右にゆさゆさ揺れます。
 お姉ちゃんのおっぱいはとても大きいです。種族共通の特徴なのだそうで、お姉ちゃんはそれを自慢にしています。
 
「あんまり年上をからかっちゃいけませんよ。めっ、ですからね」

 おっぱいの大きいお姉ちゃんが釘を刺してきます。僕も素直に頷き、お姉ちゃんの言葉を受け入れます。
 僕が意地悪するのはお姉ちゃんだけだよ、なんて、恥ずかしくてとても言えません。
 
 
 
 
 お姉ちゃんは悪魔です。
 正確に言うと、魔物娘という存在らしいです。数年前から「こっちの世界」にやって来た人達らしく、人間ではないようです。
 そしてお姉ちゃんも、その魔物娘の一人です。ホルスタウロス、という、おっぱいの大きい牛の魔物娘です。
 
「レキ君、今日も一日よろしくお願いしますね♪」
「はい。お願いします」

 そんなお姉ちゃんと僕が知り合ったのは、ほんの一か月前のことです。僕の父が仕事場でお姉ちゃんの父親と仲良しになり、その縁で僕とお姉ちゃんが知り合ったのです。今ではこうして、お姉ちゃんが僕の留守をお世話してくれるようになりました。
 
「お姉ちゃんがお昼ご飯作るから、レキ君はお洗濯お願いしますね」
「うん、わかりました」

 お姉ちゃんがご飯を作り、その間に僕が掃除や洗濯を済ませる。いつもの分担作業です。最初はお姉ちゃんが全部一人でやろうとしていたのですが、僕が「自分も手伝う」と言って、今の形に落ち着いたのです。
 お姉ちゃんに全部押しつけるなんて出来ません。言ってしまえば、これは僕のわがままです。でもお姉ちゃんは、僕の申し出を喜んで受け入れてくれました。
 お姉ちゃんは優しい人です。
 
「レキくーん。ご飯できま
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