人間の白河武流とアラクネのメイディが恋人同士になって、一週間が経った。一年先輩のメイディが屋上に武流を呼び出し、そこで壁ドンからの「私のモノになれ」宣言をしたことが、関係変化の決定的要因だった。
秋が終わり、季節がすっかり冬に移り変わった頃のことである。
「あなたはもう私のモノなんだから。絶対に離さないんだからね」
「はい。僕も一生、あなたについていきます」
「あの二人が正式にカップルになったぞ!」
なお二人がくっついたことは、すぐに学校中に知れ渡った。しかし変に盛り上がりはしなかった。むしろ「やっとか」と言わんばかりに、それを知った者の大半が老婆心ながら安堵した。二人がいい雰囲気になっていたのは、メイディが行動を起こす前から周囲にバレバレであったからだ。
「なんでバレたのかしら」
「不思議ですね」
なお当事者である二人は、その「いい雰囲気」を完全に隠せていると思っていた。武流とメイディは告白前から両想いの間柄であったが、それを知るのは自分達だけだと本気で考えていた。
二人して隠し事は壊滅的に下手だった。悲しいことに、二人はそれにも気づいていなかった。
「親愛なるタケルへ。今日は両親が不在なので、我が家に来るように。サプライズを用意してあるので、絶対来るように」
話を戻す。メイディが告白した一週間後、武流は当のメイディからそんな内容のメールを受け取っていた。運良くその日は休日だった――確信犯である――ので、武流も快くそれを受け入れた。何よりメイディの家に上がるのはこれが初めてになるので、武流の胸は喜びでいっぱいになった。
疑念を抱く、警戒すると言うようなことは欠片もなかった。善人である。
そしてその日、善人の武流は喜びのままに家を出た。午前九時のことである。
「ごめんください。武流です」
「あら、いらっしゃい。よく来たわね。歓迎するわ」
メイディの家は、武流の家から自転車で十分ほど漕いだ所にあった。メイディは玄関前で武流を出迎え、二人仲良く敷居をまたいだ。
彼女の家はアラクネ属の体型に配慮してか、周りのものより一回り大きく、おまけに二階建てだった。それを見た武流が高そうだと正直に呟くと、魔界にいる母の友人に頼んで作ってもらったから安く済んだとメイディが楽しげに答えた。
蜘蛛の先輩も今日を心待ちにしていたことが、その言葉の調子ではっきりとわかった。隠し事が下手な先輩だったが、武流はそこもまた愛らしいと思っていた。
「そんなことよりタケル。早く私の部屋に行きましょう。もう歓迎の準備は出来てるんだから」
「は、はい。そうですね」
そこで話を切り上げ、メイディが本題に戻る。武流も頷き、二人はメイディを先頭にして二階に続く階段を上った。二階部分には複数の扉があったが、カップルは迷わずメイディの部屋に続く扉を開けた。案の定中は広く、メイディがくつろげるスペースが十分確保されていた。
「やっぱり大きいなあ。うちとは全然違うや」
中に入った武流が顔を上げ、辺りを見回しながらしみじみ言う。
メイディからの反応はない。
「先輩?」
不安に思った武流が視線を戻す。前方にいたはずのメイディが、影も形も見当たらない。
胸中の不安が増す。刹那、背後からガチャリと音が響く。
「えっ」
思わず後ろを振り向く。そこにはドアを閉め切り、鍵をかけたメイディの姿があった。
「なにを……」
「かかったなアホが!」
武流が疑念をぶつけようとする。
次の瞬間、メイディが武流に向かって糸を飛ばした。
「それで、先輩は僕にこんなことして何がしたいんです?」
「安心してタケル。別に取って食おうとかは思ってないから」
数秒後。見事に蜘蛛の糸で簀巻きにされ床に転がされた武流を見下ろしながら、メイディがご満悦の表情で言ってのける。
無論武流も、そのことは承知している。メイディは強引な手は使うが、暴力的な手は決して使わない。そのことは彼が一番よく知っている。
だから武流は、簀巻きにされても冷静さを失わなかった。床に転がされた体勢のまま、まっすぐメイディを見つめて彼女に問うた。
「じゃあ今日はなんで呼んだんですか?」
「あなたに私の作った服を着てみてほしいのよ」
「服?」
メイディの答えを聞いて、武流が首を傾げる。アラクネ先輩が腕を組み、たわわな胸をさりげなく強調しながら言う。
「そう、服。私達アラクネは自分の糸で服を作るってこと、もう知ってるわよね」
「はい」
即答する。武流にとっては常識だ。
気分を良くしたメイディが頷いて続ける。
「それで私も、その、何着か作ってるんだけど。自分のセンスに任せて作ったものばかりだから、その」
「実際
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