第三話

 「ふぅむ、困ってしまいました」

 うろうろとボロい我が家を歩き回っていたシュドネアが、眉を八の字にしている。

 「なに?どうかした?」

 「ああ、いえ。そういえば貴方がお腹を空かせていたのを思い出したので、一つ手料理でも振る舞おうと考えたのですが……」

 まさしく困り果てた様子で、シュドネアが話を続ける。

 「どれだけ探せど、キッチンが見当たらなかったので、どうしたものかと……」

 「あー、ないよ」

 「おや?」

 「ウチ、キッチンないよ」

 「おや……………」

 ボクの言葉を聞いたシュドネアが、さらに眉を寄せる。

 「キッチンがなくて、今まで困ることがなかったのですか?」

 「まぁ、料理とかしないし……」

 別に調理が必要な物は食べないければいい。そう考えると調理設備がなくとも問題はないわけで。
 そういうわけで、ボクは今までキッチンがないことに不便さを感じることはなかった。

 「少々恐ろしいのですが……貴方は普段、なにを食べているのですか?」

 文化的な生活をしてきたシュドネアからすれば、調理なしで一体なにが食べられるのかと疑問に思ったのだろう。

 「えーと、虫とか草とか……………冗談だよ」

 シュドネアが泣きそうになっていたので、この話はとりあえず誤魔化すことにした。

 「ああ、安心しました。一応は、ちゃんとした物を食べているのですね?」

 「………………………うん!」

 ごめんシュドネア。虫と草とゴミ箱の残飯ばっかり食べてる。
 ただ、それを話すと本当に泣き出しそうなので、ここは黙っておくことにした。

 「にしてもさ、申し訳なく思うよ。シュドネアもお腹が空いてるだろうし……」

 別にボクは慣れているからいいのだけど、シュドネアまで空腹に苦しむことになるのは、どうにも悲しい。
 彼女にだけはなにか食べさせてあげたい。なのに、それを叶えるだけの力がボクにはなかった。

 「ああ、私のことは気にしないでください。魔物に食糧問題はないので。それよりも、エノの食べる物がないことが困ります」

 ボクの思いはよそに、うんうんと唸るシュドネア。
 顎に手を当て、なにやら打開策を考えているようだ。

 「あっ、思いつきました」

 ポンっと手を叩いて、シュドネアが明るく笑う。
 はてさて、なにを思いついたのだろうか?

 「母乳飲みますか?」

 「……………………………………………え?なんだって?」

 ちょっと何を言っているのか分からなくて、思わず聞き返してしまった。

 「私がミルクを出せば万事解決かと」

 なにが万事解決なのか。
 問い詰めたい。シュドネアを小一時間ほど問い詰めたい。

 「ああ、ご安心を。私は子を孕んだ経験もなければ交わった経験もありません。100パーセント処女です。ですが私は魔物ですので、魔法で“ちょい”すれば母乳ぐらい出せます」

 この子は一体なにを言っているんだ………?

 「なので、私のを飲んでください。こう、ちゅぱちゅぱ、っと」

 「いや、駄目だよ!」

 どう考えても駄目だ。
 要するにアレだ。シュドネアは、ボクに吸えと言っている。
 シュドネアの胸に吸いつき、母乳を飲ませてもらうボクの姿が思い浮かぶ。
 酷い状況だ。これが許されるとは到底思えない。

 「大丈夫です。セーフです。合意の下ならセーフです」

 「完全にアウトだよ!」

 合意だろうがなんだろうが、まったくセーフではない。人間として終わってる。
 赤子にするならともかく、ボクは今年で17になる男性だ。
 それが同じくらいの年頃の少女から授乳されるというのはあまりに危ない。

 「まぁまぁそう言わず。合法ですから。みんなもヤッてますから」

 「いやいやいや」

 「いえいえいえ」

 「…………………………………」

 「…………………………………」



 「「……………………………………………」」






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 「押し切られた………!」

 一時間にわたる話し合いの末、ボクはシュドネアに言いくるめられてしまった。

 「まぁまぁ、味と栄養は保障しますから」

 硬いベッドの上に座るシュドネアが、それはそれはニコニコと笑いながら、ボクの肩をポンと優しく叩いた。

 「さぁ、それでは早速、始めましょうか……
#9825;」

 どこか熱っぽい息を吐いて、シュドネアがシャツのボタンを開け始める。

 プチ、プチとゆっくり、しかし躊躇わず。
 ボタンを外す音が部屋に響いて……やがて止む。

 「開けました………おや?何故目を瞑っているのですか?」

 「見たら不味いかなって…!」

 きつく瞼を閉じ、シュドネアの姿を見ないようにする
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