もしも目が覚めた時、魔王の娘さんに抱きしめられていたら、どうするだろうか?
ちなみにボクはひたすらビックリした。
「心臓が止まるかと思った………!」
そうやって飛び起きたのが数分前。
どうにかこうにか、メチャクチャになった拍動と呼吸を整える。
そんなボクを眺めて、白い淫魔はクスリと笑っていた。
「ふふっ。凄い驚きようでしたね。例えるならそう、リリムとエンカウントしてしまった新米勇者のような驚きようでした」
イマイチ分かるような分からないような微妙な例えだ。彼女としてはジョークのつもりなのだろうか?
いや、それは置いておこう。ジョークの詳しい説明を求めても悲しみしか生まれないのだから。
「リリムジョークはいいよ。シュドネア」
「はい、シュドネアです。ああ、私の名前を覚えていただけたようで嬉しいです。とても、とても」
ボクが名前を呼ぶと、シュドネアはうっとりとした笑みを浮かべる。
名前を覚えてくれたこと、呼んでくれたこと。それが幸福であるとでも言うかのようだ。
「あぁ、そうそう。私としたことが一つ忘れていました」
「えっ、なに…?」
恍惚とした表情のまま、シュドネアがボクの頭に手添えてくる。
「シュドネア……?」
「おはようございます…………ちゅっ
#9825;」
シュドネアはそのままボクの前髪をかき上げて、額に口づけをした。
「っ!?……これは…どういう…?」
「おはようのキスです。なにか問題がありましたか?」
質問に対して、シュドネアはなんともなさそうに答える。
「ああ、今日は良い一日になりそうです」
そう言って、シュドネアは優しく微笑んだ。
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「やっぱり、不思議な感じがする」
「はて?どうかしましたか、エノ?」
壊れかけの椅子に座って呟けば、テーブルの向かい側にいるシュドネアが小首をかしげた。
「もしや、まだ動悸が収まりませんか?そんなにも『おはようのキス』が良かったのですか?」
ニヤニヤと意地悪そうに笑うシュドネア。
あの時、額にキスされた後、初めての経験にボクはかなり動揺してしまった。
おそらく彼女は、その時のことを思い出しているのだろう。
「……そうじゃなくて。なんていうか、こんなボロ家に魔王の娘さんがいるのが不思議だと思って」
分が悪そうだったので、強引に話題を変える。
少なくともボクは、一生のうちにリリムを家に招くことがあるとは想定していなかった。
こうやってテーブルを囲む機会があるとは思っていなかったし、まさか「おはようのキス」なんてモノをされるとも考えていなかった。
というか想定できるかこんなこと。
「ふむ…そんなにも私の姿はミスマッチでしょうか?」
「いや、ミスマッチっていうか……こんなところに居ていいのかなって」
少なくとも彼女は、貧民街なんかにいるべき存在ではないと思うのだけれど。
さらに言えば、ここは反魔物領だ。魔物であるシュドネアがここにいるのは非常に危ないのではないだろうか。
「いいの?勇者さまとかに見つかったら、斬りかかられるよ?」
「おやおや。心配してくれているのですか?」
「それは……まぁ」
なんとなく、シュドネアが酷い目に遭うのはイヤだと思う。
彼女は魔物。人間の敵なのだが……それでも、シュドネアが傷つくようなことは、なんかイヤだった。
………どうしてそう思うのかは、考えても分からないけど。
「キミがなんでこの国に来たのかは知らないけど、早く家に帰ったほうがいいんじゃないかな」
「はて?帰っていますが?」
「えっ?」
一体、シュドネアはなにを言っているのだろうか?
心底から理解できなくて、ボクは彼女に説明を求めることにした。
「ああ、エノにはまだ言っていませんでしたか。私はここに住むことにしました。なのでここは私と貴方の家です」
「いやいやいや……」
説明されても、シュドネアがなにを考えているのか理解できなかった。
住む?このボロ家に?何故?
疑問ばかりが頭でぐるぐる回っている。
「ああ、ご安心ください。エノの迷惑にはなりません。これでも家事手伝いは一通りできます。花嫁修業はしてきましたから」
「いや、そういう心配をしてるわけじゃなくて」
別に、彼女になにか手伝って欲しいことがあるわけでもない。
ボクが理解できないのは、この街に住もうという考えだ。
生まれてからずっと貧民街で生きてきたが、この街はロクなもんじゃない。
毎日お腹がを空かせて、ゴミを漁って使えそうな物を拾って。そんな惨めな生活が延々と続いていく。
もし
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