食べるものがなくって、ゴミ捨て場から残飯を漁っていたのだったか。
そしたら巡回中の自警団に見つかって殴られたのだったか。
「あはは…失敗、失敗…。はぁ……血の味がする」
身体中が痛い。どこをどれだけ殴られたなんてのは覚えてないが、とりあえず重傷みたいだ。
「……これ、帰れるかな…?」
壁にもたれかかって、夜の路地裏を進む。
とりあえず家に帰ろう。ここで寝てたら死んでしまいそうだ。
「はぁ、お腹空いたなぁ……」
だからゴミ箱を漁ったのに、残念ながら中に食べられそうな物はなかった。
おまけに自警団の人に殴られる始末。まったくもって大失敗だ。
「………………っ」
空腹のせいか、激痛のせいか。ぐらりと、身体が傾く。
どうやらもう、立つこともままならないらしい。
「………………………あれ?」
そのまま冷たくて硬い地面に倒れる、はずだった。
だが、ボクは倒れることなく、温かくて柔らかいモノに支えられている。
「おやおや。大丈夫ですか?」
どうやらボクは、誰かに支えてもらっているらしい。
見るとそこには、とっても綺麗な女の子がいた。
腰まで届く白い髪に、真っ赤な瞳。シャツと黒いロングスカートに身を包んだ、スレンダーな美少女だ。
その子の小さな胸に顔を埋める形で、ボクは支えてもらっているみたいだった。
「……天使さまみたい」
彼女があまりに美しかったからか、それとも優しそうだったからか。
思わず、そんな言葉が口から零れる。
「おや、私を指して天使とは。大変に光栄ですが…………ふふっ、生憎と淫魔です」
「淫魔…?」
言われて再度、彼女の姿を確認する。
よく見れば、彼女には蝙蝠みたいな形の白い翼と、白い尾があった。
頭には角が生えていて、その姿は少女の言うように、淫魔のソレに違いない。
「……かわいい」
「おや、おや。『かわいい』とは」
一応、これでもボクは反魔物領の人間なんだけど…………そういうのを抜きにして、彼女はどうしようもなく綺麗で、可憐だった。
それでも口に出してしまったのは、痛みで意識がぼんやりしているからか。
あるいは、彼女があまりにも魅力的だったからだろうか。
「私も容姿には自信がありましたが、実際に褒められると嬉しいものですね。ええ、とても」
白い尾がボクの腰に巻き付き、淫魔の腕が優しく抱きしめてくる。
「私はリリム。名をシュドネア。魔王の娘の一人です。驚きましたか?」
そうやって白い淫魔……シュドネアは、微笑んだ。
「とても、気に入りました。ええ、貴方のことを、是非とも知りたい」
それがシュドネアとの出会い。
ボクの、生まれて初めての幸福だった。
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「いやー、助かったよ。ありがとうね」
白い淫魔、シュドネアに肩を貸してもらって歩くこと数分。ボクらはボロボロの小さな家にいた。
「いえいえ、構いませんよ、エノ。……それにしても、ここが貴方の家ですか」
ボクの名前を呼んだシュドネアが、なんとも言えない顔で家の中を見渡す。
「ふむ。聞いていた以上に……劣悪な生活環境です」
帰る途中でシュドネアは色々なことを聞いてきた。
それはボクの名前だったり、どうして傷だらけなのかっていう話だったり。
あるいは、ボクがどんな場所で暮らしているのか、だったり。
「狭い上に、寒い。家具も壊れかけで、灯りは切れかけのロウソク一つとは」
「そんなに酷い?貧民街じゃ普通くらいだよ?」
「……貧民街、ですか」
そう、ここは貧民街。ボクみたいな貧民の最後の居場所。
食べる物はほとんどなく、家はどこもボロボロ。
とてもじゃないが、人間が幸福に暮らせるような環境ではないだろう。
「まぁ、これでもボクは恵まれてるほうだよ。寝る場所があるんだもん」
痛む身体を引きずって、ベッドに腰かける。
布切れを必死に集めて作ったベッドは、石みたいに硬かった。
「はぁ……生きててよかった」
ほっと一息。今日は本当に危なかった。
シュドネアが現れなかったら、あのまま路地裏で衰弱死していたかもしれない。
「本当に、ありがとうね。シュドネアと出会えてよかったよ」
改めて彼女にお礼を言う。
「……ええ、どういたしまして。ふふっ、困ったときはお互いさまです」
部屋を見て複雑そうにしていたシュドネアが柔らかく微笑む。
「お隣、座っても?」
「あー………このベッド、硬いよ?」
「ふふっ、構いませんよ」
そう言って、シュドネアがボクの隣に座る。
「……なるほど、確かに硬いですね。私の知
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