誰もいない家を出て徒歩20分。
よく晴れた公園へ足早に向かう。
別に急いでるわけじゃない。
それでも早足になってしまうのは、そこで待ち合わせている“彼女”のせいだろうか。
「まぁ、待ち合わせの時間にはまだ早いけど」
今着いたところできっと彼女はいないのに。
急いだって無駄なのは分かってるけれど、急く足は止められない。
その理由はとっても簡単。
オレがただ、彼女と会いたいってだけ。
「早く会いたいなんて、単純だなぁ」
自嘲気味に呟く。
あぁ、寂しいから早く彼女と会いたいとか、一緒にいたいとか。
なんか、子どもみたいだ。
参ったな。もうオレも高校生なのに。
それに、オレには“彼女”がいる。
一応は恋人がいる身として、もう少し自立したいところなんだけど……
なんて、そんなことを考えているうちに目的地に到着する。
午前9時30分の、人気の少ない公園。
オレと彼女の待ち合わせ場所。
「待ち合わせ30分前……当然、まだ来てないか」
安物の腕時計を確認して辺りを見渡してみる。
待ち合わせ場所の公園には、誰もいなかった。
待ち人の姿はなし。
早く彼女と会いたかったのだけど……いや、オレが早く着きすぎたのが悪いな。
「早く着いちゃったし、ちょっとゆっくりしてようかな」
息をついて、近くにあったベンチに腰掛ける。
「────ばぁ!」
その次の瞬間、視界が真っ暗になった。
目をなにか……大きな手で隠されてしまっているようだ。
「いきなり目隠ししてゴメンねぇ?驚いた?驚いちゃったかな?」
真っ暗な視界の中、背後から声が響く。
聞き慣れた声で、そしてどこか心地いい女性の声だ。
「まぁそれは置いといて。さてさて、アタシの愛しいキミに問題です。
今、キミの両の目を手で覆い隠しているのは、誰でしょうか?
見事正解すれば、ご褒美をあげちゃうよ〜?」
カラカラと笑うような、おどけた問いかけ。
あぁ、なんだ。もう待ち合わせ場所にいたんだ。
「エディア、おはよう。早いんだね」
「んふふ〜。おはようだね、透真。挨拶できてとっても偉いねぇ」
朝の挨拶をすれば、頭上から同じように挨拶が返ってくる。
そして同時に、偉いだなんて褒めらてしまった。
こんな当たり前のことで褒められるのもどうなんだろう?
しかしまぁ単純なことに、オレは褒められて嬉しくなっちゃうんだけど。
「それはそうと、アタシの問題に対する答えはまだかな?
アタシの愛しいキミに目隠ししている、後ろのアタシは一体誰でしょうか〜」
「えぇ、さっき答えたじゃん。エディアって」
「おーいおいおいおーい。おんなじ名前の人物なんて何人もいるじゃないか。
ちゃんと個人を特定できるように詳細な説明を加えて答えてほしいよアタシは」
“分かるかいアタシの愛しい透真”と言葉を付け加えて、背後の彼女が笑う。
どうやら彼女は、オレをからかって遊んでいるみたいだ。
悪戯好きな彼女らしい。ならオレも乗っかってみるとしよう。
「じゃあそうだね…………魔物で、ボギーで、オレと付き合ってくれてる女の子で、オレが誰よりも愛してるエディア」
「んふふ〜!大正解!」
オレがそう答えれば、パッと目を隠していた手が離れる。
真っ暗闇から一気に視界が明るくなって、一瞬目が眩んだ。
「やぁやぁやぁ。キミと付き合っていて、キミが誰よりも愛しているアタシだよ」
眩んだ目が元に戻れば、そこには綺麗な少女がいた。
柔らかなベージュと、艶やかな茶が混ざった不思議な髪色。
肩から胸元までがばっくり開いた道化師衣装に身を包み、白くてきめ細かな肌を惜しげなく晒した魔物。
どこかいやらしい笑みを浮かべ、爛々とした赤い瞳でまっすぐにオレを見つめてくれる、女の子。
そんな女の子の顔が、逆さまにオレを覗き込んでいた。
「おっと、キミと付き合っていて、キミを誰よりも愛している、キミ専用の道化のアタシ、のほうが正しいかな?」
彼女は僅かに赤くなり、頭上から覆いかぶさるようにして、オレと顔を見合わせ笑う。
その表情がたまらなく可憐で扇情的に映るのは、彼女が最愛の人だからだろうか。
「そうだそうだ、見事正解したキミは、約束通りご褒美をあげないとねぇ」
「ご褒美って──────」
「んっ
#9825;」
言い終わる前に、彼女がオレの唇を奪う。
「ちゅっ
#9825;んむ、ぐちゅっ
#9825;んん……っ
#9825;」
逆さまなまま、彼女の舌がにゅるりと口内に入り込んでくる。
彼女の舌が、オレの舌と絡まり合う。
穏やかで、献身的なキス。
甘くて、気持ちのいい『ご褒美』を、与えられるままに味わう。
「……っぷは!
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