隣り合わせ。椅子を寄せて、ぴったりとシュドネアが腕に抱き着いてくる。
「ふふっ…♪ふふふ……♪」
そんな彼女は絶賛上機嫌で、ニコニコと笑っていた。
「……あの、シュドネア。その…胸が当たってるよ」
「ふふっ、当てているのですよ?」
ぎゅっと抱きしめる力を強めてくる。
すると当然、腕に感じる柔らかな感触が強くなるわけで。
「さぁ、エノ。食べさせてください…………あーん…
#9825;」
シュドネアが口を開けて見せる。
「…………あーん」
手元のフルーツケーキをフォークで切り分けて、シュドネアに食べさせる。
その際に彼女の唇の内側、てらてらと艶やかに蠢く舌が見えてドキリとしてしまった。
「あぁ…
#9825;とっても幸せです……
#9825;」
ボクにケーキを食べさせてもらって、シュドネアはまさしくご満悦といった様子だ。
とろん、と顔を綻ばせ、身体をすり寄せてくる。
(どうしてこうなってんだろう…………)
そんな彼女の姿を眺めながら、ボクは事の発端を思い出していた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
事の始まりはなんだったか。
日雇いの仕事から帰ったときだっただろうか。
出迎えてくれたシュドネアに、ボクはケーキの入った白い紙箱を渡した。
「ふむ……これはどうしたのでしょうか?」
当然、彼女は戸惑っていた。
それもそうだ。なんの説明もなしにケーキを渡されたらそうなるだろう。
「あー……えーと。なんていうかさ……」
言い淀んだボクを見て、シュドネアは不思議そうな顔をした。
正直、このまま適当に誤魔化してしまいたいが…………
……まぁ、そういうわけにはいかない。それは良くない。
「あのさ。いつも、ありがとう」
緊張を振り払って、どうにかこうにか、伝えたかった言葉を吐き出す。
ただの感謝。ただそれだけのはずなのに、どうにも照れくさい。
「その、さ。シュドネアと一緒に暮らしてから、ほんのちょっとしか経ってないけど……とっても、楽しいからさ」
気恥ずかしくて、所々詰まってしまった。
参ったな。家に帰る途中でちゃんと言いたいことを考えて、練習したはずなのに。
「シュドネアと出会えて、本当によかったって思うから」
「………っ
#9825;」
「だから、その……感謝の気持ち、っていうか……プレゼントっていうか……」
ちらりと、彼女の手の中にある白い紙箱に視線を向ける。
中に入っているのは、少し高価なフルーツケーキ。
これが、今ボクに渡せる最大限の贈り物だった。
「えっとさ、そのケーキは結構高いやつで、富裕層の人が食べてるくらいだから、たぶん口には合うと思って………」
さすがに、シュドネアに安物を渡す気にはなれなかった。
彼女は魔王の娘なんだから、それに相応しい物じゃないと感謝を伝える贈り物にはならないだろう。
だからボクが選んだのは、とても高くて、美味しいって評判のケーキだった。
「ええと………ケーキの話はいっか。その、なんていうかさ………」
やっぱり照れくさいな。このまま話を逸らして誤魔化してしまいたい。
けれどここまで来たらもう退けない。
真っ直ぐに、シュドネアを見つめて、言葉を伝える。
「ありがとう、シュドネア」
これが、一番伝えたかった言葉。
どうしても、言いたかった言葉。
彼女から貰ったものを、ほんの少しでも返せたらよかった。
「エノ………っ
#9825;」
「わっ……!?」
いきなり、シュドネアがボクに抱き着いてきた。
ふわりと白い髪が舞って、可憐な淫魔が腕の中へ。
甘い匂いが鼻孔をくすぐり、柔らかな温もりが胸に広がっていく。
「シュドネア…?どうしたの?」
「あぁ……とっても、嬉しいのです……!」
羽がボクの身体を包み込んで、ぴったりとくっついてくる。
加えて尻尾が腰に回され、さらに両腕でしっかり抱き着いてくる。
「今まで貰ったどのプレゼントより、嬉しいです…!」
「…………それは、大袈裟なんじゃ…」
流石に言い過ぎだと思う。
彼女は魔王の娘なんだし、もっと高価でいい物を贈られてきたんじゃないだろうか。
「いいえ、いいえ…!大袈裟なものですか!」
だというのに、シュドネアは凄い喜びようだった。
……まぁ、贈った側としては、嬉しいことこの上ないけど。
「喜んでくれて嬉しいよ。本当に、キミと出会えてよかった」
素直にそう思う。自分のやったことを喜んで貰えたのはたぶん初めてだし、その初めてが彼女であって良かったとも思う。
こうして喜んでくれるのも、こうやって身体を寄せられる
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