魔物の国から帰った俺らはお偉いさんの屋敷に招かれて、そこで見たままを伝えた。もっともフェルニストさんとの悪巧みだけは秘密だが。
「おお! よくぞお戻りになられました勇者さま」
「とつぜん飛び出してどうもすいませんでしたね。いてもたってもいられなくなっちまいまして」
「いえいえ、民の暮らしがおびやかされてると見れば行動に移す。勇者さまにふさわしい正義感でございます」
わかりやすいおべんちゃらだな。手が早いのが勇者なら、お望みどおりにしてやるとするか。
「まあだが、先走った分の収穫はあったぜ。ほらよ」
無造作に投げつけた書類は、悪徳貴族どもの金遣いをわかりやすくまとめたもんだ。商いをしている奴ならろくでもないと一目でわかるシロモンで、読んでる爺さんの顔はどんどん青ざめていき。途中でグシャッと握りつぶした。
もったいねぇな、コピーがあるとはいえ。
「こ、これは一体……」
「まっ、悪い事はできねぇって事だな」
意味深に天井を見上げてやれば、俺らの間にある机が派手な音を立てた。
お天道さまの裁きだとても思ったかね。ホントのとこはこの国に忍び込んだ魔物たちの成果ってやつなんだが。
冷静ならハッタリだと気付けそうなもんだが、まぁそそっかしく振舞ってた俺からいきなり悪事の証拠を突き付けられりゃ、動揺しないのは無理ってもんだ。
「年貢の納め時ってやつ……いやわかんねえか。まあ私腹はもう十分膨れたろ。大人しくしな」
椅子から立ち上がった俺は、爺さんの傍まで近寄り自首を勧める。この国の法律はわかんねぇが、みっともなく足掻くよりは国民からの心証は良いほうがいいだろう。
「ふ、ふふ……よくできた偽物ですな」
「なら調べてみるかい? そん時ぁ公衆の面前でになんがな」
「ぐっ……その必要はございませんぞ」
爺さんが髭を撫でるのと、俺の首があった場所に刃が振られるのはほとんど同時だった。
「あっぶねぇなおい!」
「なっ!?」
あちらさんの目には、切ったはずの俺が霧みてぇにかき消えただろうな。
うちの流派に伝わる奥義の一つ。足さばきで位置を誤認させる日食の型。お返しに魔物の国で買った長巻を食らわせてやれば、刺客は床に倒れて動かなくなった。
と言っても死んだわけじゃなく。理屈はわからんが魔物の武器は、魔力だけを切って無力化させるらしい。
「こんくらい予想してねぇわけないだろ。舐めすぎたな爺さん」
刃を向けられて観念した爺さんを縛り上げ、あとはスールが護衛しているお姫さんに引き渡せば俺の仕事は終わりだ。
魔物って悪を切る勇者の仕事はできなかったが、代わりに金の亡者って奴に仕置きしたんだからこれで勘弁してくれんかね。
──────
借り受けた部屋の窓から国を見下ろす。俺が召喚された時とそう変わりない、ありふれた日常ってやつだ。
国のお偉いさんがいきなり捕まったとありゃ、混乱すっちゃかめっちゃかと思っちゃいたがそんなことはなく。横領に関わらずに冷や飯ぐらいだった人材が穴を埋め。むしろ今までよりずっとスムーズに回ってるそうだ。
スールが教えてくれたが、お姫さんはずっと前から反撃の人手を集めてたらしい。裏で動いてたのはフェルニストさんだけじゃなかったってわけか。
「ここにいましたかフユキ」
「スールか、今更だが助かったよ。あんたがいたおかげで、混乱は最小限で済んだからな」
天使がいたってのも王女さんの正当性を高めた。あの後、お姫さんは税を搾り取っていた家臣を公衆の面前で裁き。苦しい生活を強いたことを国民たちへ詫びた。
そん時に俺とスールは勇者と天使って立場をちょいと使わせてもらい。お姫さんの横に控えて我こそ正義って感じの演出を手助けさせてもらったわけだ。
「苦しむ民を救う一助になれたのならば喜ばしいことです。ですが……」
「そこは悪かったよ、神さまからの使命は宙ぶらりんにさせちまったからな」
「これで良かったのか? どうしてもそう思ってしまうのです」
俺が召喚されてスールが降臨したのは、魔物が攻めてくるからだ。けれどフェルニストが治める国に侵略の意志はなく。動いていたのは、やり方はともかくこの国を救うため。
「魔物を倒すのはヴァルキリーの使命……けれど、それは恩知らずな行為です」
敵とはいえ助けてくれた相手を襲うなんて、真面目なスールにはできねぇだろうな。
魔物と天使について俺はあんまし……いやまったくわかんねぇ。下手な慰めやフォローは余計に悩ませるかもしんねえ。
「親父やお袋に言われたことあってな。正しいかどうかなんてお空のお月さんと同じで、ちょいと立ち位置変えれば変わるもんだってな」
だが落ち込んでるパートナー。それも惚れた相手をほっとくなんざ、ただのクソ野郎だ。地
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