「おおっ! 勇者さまが降臨なされた! 神が魔物に狙われておる我らの王国を守らんと、使者を遣わせてくださったのだ!」
聞き覚えのねぇしわがれ声が耳でさざめく。俺は茶をしばいてたはずなんだがな。なんだって昔の西洋貴族みてぇな格好の奴らに囲まれてんだが。
「ちょいと失礼。言葉が通じてれば事情を教えて欲しいんですが」
「おお、失礼いたしました勇者さま。それでは……」
髭の生えた爺さんの一人が部下らしき男に目配せして、このわけわからん状況の説明をされる。そっちは適当に相槌を打つとして、気になったのは奥の豪華な椅子に座った娘っ子だ。
明らかに一番のお偉いさんだろうに、髭の爺さんは一瞥もくれねぇ。若いから任せてるとしたってよそもんの目の前でやんのはマズいだろうに。
「事情は分かった。……悪党の切る刀が欲しくて異世界召喚って話か。困ってるのを見過ごすなんて性に合わんし。この河上冬騎、喜んで力を貸しましょうや」
まあ今んところは大人しくしとくとするか。爺さんたちに都合よく脚色されてんとはいえ、この国が魔物とやらに襲われてんのは嘘じゃねぇだろうしな。
「よくぞ答えましたフユキ。あなたはまさにまことの勇者」
「お……おお……天使さまだ! 天使さまも降臨なされた」
「やったぞ! やはり我々は正しいのだ。主神さまが我々の正しさを認めてくださったのだ!」
勇者に魔物、お次は天使ときたかい。次から次へと、頭を落ち着かせる時間が欲しいもんだ。
「初めまして勇者。私はあなたを支えるように主神から使わされたヴァルキリーです。……勇者? どうしたのですか?」
「ん、ああ、どうにも考えることが多すぎるってのは言い訳か。ちょいと見とれちまってね」
「むぅ。初対面の相手に凝視など、あまり好ましいといえませんね。しかし、素直なのはよろしいことです」
「そいつはどうも。次からは気をつけねぇとな」
切り揃えられた金ぴかの長髪にキリリとした目付き。いかにも堅物そうな見た目だが、中身も見た目どおりたぁ恐れ入った。
しかしまあこの別嬪に見とれんなってのも無理だと思うがねぇ。
髪の毛は最高級の絹ってくらい細やかで、鎧越しでもはっきりわかる肉付きの良い引き締まった身体。
なによりも目だ。どこまでも真っすぐで、正しさを信じ切ってる青い目が俺を引き付けちまう。
ジロジロ見んなって言われたばっかってのにこいつはいけねぇ。ちょいと現実に戻んなきゃな。
「できれば落ちつける場所が欲しいんだが。なんなら馬小屋でも構わねぇ」
「いえいえ! 勇者さまにそのような無作法などできません。今すぐお部屋へご案内いたします」
「悪ぃな」
天使さまに隠れてコソコソしてる爺さん共に声をかけりゃ、慌てて部屋へのご案内。
畳はねぇし靴は履いたまま。だいぶ慣れねぇが、これ以上のワガママは贅沢だろ。それよりも気になんのは──
「なんだって天使さんも同じ部屋にいんだ」
「私は勇者を導くために遣わされえました。いつ何時でも傍にいるのは当たり前です」
「俺のいたとこじゃ、男女七つにして席同じゅうせずって言葉があんだが……」
「素晴らしい言葉ですね。男女の関係とは清くなければなりません」
駄目だこりゃ。自分は女と数えてねぇのか。それとも天使は人間なんぞに欲情しねぇってことかね。だったらこうも目の毒してほしくねぇもんだが。
「ったく、浜の真砂もなんとやら。随分と骨を砕く仕事らしいな、勇者ってやつは」
まずは臭い所を探すとこからやんなきゃなんねぇな。
──────
地元じゃまず見れない街並み。石造りの家に妙な食いもん。旅で来れてりゃさぞ心踊ったろうな。生憎いまは仕事なんだが。
「あの……勇者? これは一体?」
「勇者らしくってのを俺なりにやってんだが、どっかおかしいかい?」
「いえ、まさしく勇者に相応しい行為です。ですが……」
「おーい兄ちゃん! そっちの石を運んでくれー!」
「あいよーすぐ行く!」
四角い石を頼まれた場所に置いて、おっさんが接着剤みてぇなもんを塗る。んでまたその上に石を乗せる。
単調だがなかなかしんどい作業を、お天道さまが真上に来ちまうまで続けてんだがたいして疲れはない。これが勇者の加護ってやつかね。
「仕事手伝ってくれて助かったよ兄ちゃんたち。そろそろ昼飯だ、あんたらも食っていてくれ」
「おっとそいつはありがてぇ。遠慮なく頂かせてもらうよ」
「ありがとうございます」
天使さまが深々と頭を下げる。俺のやることに汚いだ低俗だ言われやしないかちょいとばかし冷や冷やもんだったが、不思議がりつつも手伝ってくれた。
神さまの使いつっても、気位が馬鹿たけぇわけじゃないのはなによりだ。
「ほーこれがこの国のメシか。干し肉の塩っけと野菜のみずみ
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