私は何を考えていたのだろうか。
私は、何をしようとしていたのだろうか。
王子の従者として、猛省を込めながら大剣を振るう。
私はバイコーンとして生まれ、この血を呪ってきた。
私は主君を襲おうとした駄馬だ。でも、それでも、我が主君は私を頼ってくれた。
――これから、僕を守ってくれないか。いろんなものから
彼はそう言った。それなのに、私は主君のために何もできてなんかいない。
女王に脅され、惑わされ、王命であったとしても、私はフェリエの法を犯し、あまつさえ主君を襲おうとした。
女王は私が自分自身を穢れた存在だと思っていることを知っている。
だから、あんな命令を書状で送ってきた。
けれど、私はあのメストカゲの叫びを聞いて、目が覚めた。
『愛は言葉で紡ぐもんだ……!! 力で屈服させ、押し付けるものなんかじゃないッ!!』
愛、なんて言葉を耳にしたのはいつぶりだっただろうか。
森の中で聞こえてきたレクシアの言葉に、私はふとそう思った。
小さなころ、私が生まれたことで起きた戦乱を知らない無垢な頃、私はユニコーンの姉たちのように、淑やかな女性に憧れ、清純な愛を夢見ていた。
けれど、私は己の穢れを知り、その憧れを秘めたまま、愛なんてものに夢見ることがないように、戦士の道へ進み、武を磨くことで忘れようとした。
そしてその結果授かったのはミネルヴァという名前。まだ魔物たちが人間を殺し、食らう時代だった頃にいたとされる戦闘狂の邪龍と同じ名前。
女王から名乗ることを許された名は、穢れた私に相応しい名だった。それでも、他の人はこの穢れた名を名誉なことと言って褒め称える。だから名を隠し、さらに鍛錬に励んで忘れようとした。
けれど、こんな戦闘狂の私でも、恋はした。
時期女王エルメリアの婿になると王室に迎えられた、我が主君に。
彼は私の見た、父以外の初めての男性だった。
私が初めて会ったのは、テツヤ様の編入される戦術学院入学に向けて訓練をしてほしいと女王様に頼まれたからであった。
当時のテツヤ様は武器を持たせるとヨロヨロして、何故か魔力の適正属性がわからない。鎧を着ると動けなくなって、動いたと思ったら次の瞬間頭から転んでいた。
そんな彼を三か月で高等学院二年と同じ練度に引き上げるのが女王様からのオーダーだった。たやすいことではなかったけれど、寝る間を惜しんで木剣を振ったり、鎧を着た彼のよちよち歩きを手伝ったりする辛い日々を終え、彼の成長の一つ一つを自分の事のように喜べた。
そして私は次第にこの人と一緒に幸せになりたいと思うようになった。
それでも私はこの願いが叶わないと知っていたから、淑やかな女を彼の前では演じた。
けれど編入初日に襲い掛かってしまった。もう無理だと思った。私の想いは彼に知られてしまった。この想いを彼に伝えたい思いはあった。けれど時期女王のエルメリア様のフィアンセに恋をすることすら許されるはずがないのに、想いを伝えるなんて、そんなことが許される訳がない。
そんなときにあの密書が来た。
テツヤ様と交わることを許す、という願ってもないような内容の。
だから私は自分をさらに穢してでも彼と交わろうとした。
この想いを彼に伝えるのがただの自己満足だったとしても、私が彼を本気で好いていることを伝えたかった。だから、彼を犯そうと思った。
でも、そこに本当の愛がないと気づけたのは、レクシアの言葉のおかげだった。
力で屈服させ、押し付けるのは暴力だ。
武力にしか取り柄のない戦闘狂の私には、愛を理解できるはずなんかなかったのだ。
アーメットのバイザーは下ろしたまま固定した。
これで誰にも私の表情は読めない。
「せぇぇぇやぁぁっ!」
後悔と贖罪の思いを乗せて、私は大剣を振るう。
大振りの一撃はレンディスの鱗を掠めるだけで、致命傷には至らない。
攻撃速度は圧倒的に遅い。しかし、龍鱗に守られた彼女を倒すには、鱗ごと叩き斬る他ない。
「レクシア!」
「うるせぇぇぇぇっ!」
私の大振りの一撃。その隙をメイが見逃すはずがない。
上から急襲をかけるメイをレクシアに防がせ、私はレンディスに対処する。
左、右と振るわれる拳を大剣の峰で防ぎ、次の一撃を峰で押し返す。
そして押し返しながら柄の先端(ポンメル)をレンディスの顔めがけて叩き込む。
まずは一撃。そして、これから。
こめかみにぶち当てたポンメルを引き、ハーフソードに持ったまま突く。
甲冑用に調整して具現化された大剣は、リカッソを長く取ってある。
ブロードソードの約二倍。分厚く調整され、鈍器のような重みを持つそれを、血がにじむほど
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