「やあ!こんにちは!また会ったね!」
「あ、先日はどうも」
指輪探しを始めて数日。再びダンはエマと偶然再会した『かのように思われた』。
「今時間とかあるかな?よかったらお茶でもしていかない?」
「いえ、自分は……」
断ろうとする寸前、ダンの腹が盛大な音を立てた。食事は買い出しを終えてからと考えていたものの、どうやら空腹は我慢できないようであった。加えて頭を過ったのが先輩、というより上司にあたるであろうリビングドールの『いーのいーの、仕事なんて良くも悪くも代わりなんていくらでもいるんだからぁテキトーにやってらくをしなくちゃねぇ』という言葉。主の不興を買ってしまった(と思い込んでいる)ダンは以前にも増してまじめに仕事に取り組んでいるが、身体は少しずつ疲労の蓄積を訴えてきている。多少の休憩ならば……とエマの誘いに乗ることにしたのであった。
「―と、あんな感じでずーっと張り込んでいる状態でして、指輪の持ち主探しが進まないんですよノアさん」
「ま、捜索依頼とか出てない時点で本当に捨てられたのかもしれないし、そろそろ打ち切ってもいいんじゃないか?」
「いや、それよりアレもはやストーカーになってませんか?」
「なんだすとーかーって新種の魔物か」
「いえ、いいです……」
いまいち元の世界の単語が伝わらないことに若干の歯がゆさを感じつつも成り行きを見守る二人。
「なんか、ああやって見てると本当の恋人同士みたいですね」
「そうだな、ヤるだけヤってほったらかしにしている爛れた関係の奴らより余程健全だな」
「ダ、ダレノコトカナー!?」
まさか自分に口撃がくると思わなかった悠貴は完全に声が裏返って露骨に焦っている。そんな悠貴を横目で見つつも
(ま、半分は魔物なんだ。好きになったら一直線なのも頷けるけどな)
と二人の様子を見守るノアであった。
「……遅い!!」
苛立ちを隠そうともせずに自らの執務机を大きな音を立てて殴りつけるシャルロッテ。そもそも普段昼間は寝ている彼女だが、指輪を投げ捨てた一件以降度々ダンが何も告げずに屋敷を出ていく悪夢に襲われ、その不安から逃げるように睡眠時間を削り仕事に打ち込んでいた。にも関わらず普段居るダンが居ない。実際に他の使用人からは買い出しに行っていると聞いてもそのまま居なくなってしまうのではないかという不安に襲われているのであった。
「買い出しなど他の者に行かせればいいだろう……!もしダンに変な女が言い寄ったりしていたら……!」
「そうですねぇ、ダンくんかなり人気者ですからねぇ」
「なんだと!?」
身を乗り出して食いつき、小さな従者のリビングドールに詰め寄るシャルロッテ。普段僕としての姿しか知らず、まして今はそのダンが出て行ってしまう(と思い込んでいる)状況のシャルロッテとしてはその不穏な単語に反応するのは当然のことだろう。
「私も私用で買い物に行くとき浮いて行くの疲れるんで運んでもらうんですけどぉ」
「ダンはお前のお伺い運転手じゃない!!」
「怒るとこそこなんですかぁ……?まあとにかく、肉屋のご主人には毎回凄くサービスしてもらってるみたいですしぃ、野菜を売っている所の娘さんなんて完全にメスの顔でダンくん見てましたしぃ」
「何故それをもっと早くに言わないのだ!」
「ぜーんぶ『一使用人などに興味などない!』って聞かなかったのはお嬢様ですよぉ」
「くっ……それは」
刹那、表情を完全に消し去り何も映さなくなったガラス玉のような瞳でシャルロッテを見つめる小さな従者。その異様な雰囲気は種族的、社会的圧倒的強者の立場のシャルロッテですら悪寒を覚えるほどの物であった。
「……いい加減自覚してくださいよぉ。誰もかれもが言葉の裏の真意に気が付けるような器用な人ばかりじゃないんですからぁ。ましてダンくんなんてお嬢様のことを貧しい自分を救ってくれた救世主なんて思ってるんですからぁ。盲目的になってる人に言葉の真意をくみ取れなんて酷ってものですよぉ?」
「でも、だけど」
「お嬢様が『貴族としてのプライド』とか代行とはいえ『領主としての矜持』を大切にしているのはわかってますよぉ。……でもお嬢様はその二つに縛られ過ぎているんです。どうなんです?ダンくんは本当にただの使用人なんですかぁ?それ以上の感情はないんですかぁ?」
「……わ、私はエルディアボロ家の次期当主だ」
「あーもうメンドクサイ人ですねぇ。私は今エルディアボロ家の次期当主と話をしてるんじゃないんですよぉ?一人の女、私のお友達、妹のように可愛がったシャルロッテに聞いているんですよぉ?」
「でも、もう嫌われてしまったかもしれない……どうしよう……どうしようダンが帰ってこなかったら」
完全に立場が逆転していた。いつも張り詰めた刀身のような
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