薄明かりが照らす殻の中をマルクとハルは交わり続けていた。粘膜同士がこすれあう水音は絶えず、お互い半ば意識を朦朧とさせながらも唇を重ねて唾液を交換させあっている。
「んぐ……ぷはっハルちゃん、ハルちゃん!」
「おいしぃ、もっと、もっと飲ませてマルク!」
そんな朦朧とした意識の中でマルクはふと違和感に気が付く。それは決して自分がいつの間にか下になり、ハルを突き上げる体勢になっていることや食事をせずとも空腹が来ないといったことではなく、もっと根本的な違和感。
(あれ、ハルちゃんって……髪の毛金色だったっけ……?)
それだけではない。まだしっかりと意識をもって交わっていた時には手とも足ともつかない突起のようなものでしがみつくだけだったハルは今はしっかりと腕を脚を絡ませ更に身体を密着させんとマルクの身体にしっかりとしがみついていた。
(わからない、わからないけど……この優しいにおいと柔らかい身体は絶対にハルちゃんだよね……)
感じた違和感を振り払い、再びマルクはハルとの交わりに没頭していく。
「おお……あったまるのう……冒険者の方もすまんな、肩たたきまでしてもらって」
「いえ、俺にはこれ位しかできませんでしたから」
ようやく震えが収まった村長はゆったりと椅子に腰掛け、悠貴からの適度に力の入った肩たたきにうつらうつらし始める。
「えっと、それでハルちゃんと村長さんに何があったんですか?」
「うむ……」
村長は一呼吸置き―
「恐らくは不完全だった春の祈りの綻びに過剰なストレスが溜まったものが楔のような状態で突き刺さっており、ワシが確認のための魔術をかけたことが刺激になり吹き出た……といったところかのぅ」
「過剰なストレス……」
「マルクには言っておらんがハルちゃんは恐らく人攫いに会い、何らかの理由で取り残されていたところをマルクが助けたのではないかとわしらは思っておる」
「人攫いってそんな!」
「残念じゃがこの辺では結構あることじゃ。まして将来見目麗しくなる魔物娘たちともなればのう」
悠貴はぞっとした。人攫いなど元の世界でも確かにあったが、それはどこか遠くの世界の話のように思っていたし、他人事のニュースという認識しかなかったものが現実に自分の目の前で起きているという事。理由はわからないが取り残されなかったらどうなっていたのか、その先のことまで考え陰鬱な気分になる。
「ほっほっほ、お若いのに随分と優しいんじゃの」
「え」
「わしらのことなどそれこそ他人事であろう。これからここに住むというでもなくそれこそ街中ですれ違う程度の関係じゃろうに」
「そんな、昨日あれだけ盛大に歓迎会までしてもらってそれこそ見知らぬふりなんてできませんよ。それに俺の住んでいた地域では『袖振り合うも他生の縁』って言葉がありますし」
「聞いたことないのう」
「なんというかどんな出会いも大事にしましょうって感じです」
「そんな言葉もあるのか、まだまだ世界は広いのぅ」
ほっほっほと笑いながらおちゃをすする村長。悠貴も肩を叩く手を止めて出された暖かいお茶に口をつける。
「それでえっと、あの白い卵というかマユみたいなのってどうなるんですか?」
「マルクも若いからの、そりゃあ中ではお盛んじゃろう」
「お盛んって……」
「まじめな話をするとグリーンワームという種類からパピヨンという種族に変化するのじゃ」
「へえ……」
そのまま夜も更けるまで待っても変化はなかったため宿に帰ろうとした悠貴であったが村長の厚意によりそのまま一晩泊めさせてもらうこととなった。
「本当に、本当にうちのコハルなんですか!?」
「わからない。だから確認をしていただきたいんだ」
「わからないってそんな……!」
「落ち着いてください貴方。今はコハルの無事を信じましょう」
遠くの山々が赤く照らされ、遅い日の出の寒空の下を翼の生えた銀色の淫魔、エステルと一組の夫婦―パピヨンと男性は雪の積もる村を目指し飛んでいた。
「時期、場所、種族を考えればまずあなたたちの娘さんで間違いはないと思うけれど」
「コハル……!今すぐ助けに行くからな!!」
一組の夫婦はおよそひと月前にまだ雪の降っていなかった近くの丘へとピクニックに来ていた。寒そうにする娘に母であるパピヨンはこれから先の寒い冬でも暖かさを忘れないようにと自分の魔力すべてをかけて大切な祈りをささげた。動きこそのんびり出会ったがもしゃもしゃと目を輝かせながら食事をする娘。慈しむようにその頭をなでながら微笑む最愛の夫。すべてが幸せに満ちていた。
だが家族は知らなかった。この近辺で悪質な野盗集団がのさばっていることを。まだこの近辺に住み始めたばかりで近所付き合いもこれからというタイミングで襲われた家族は金品こ
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