第3話 執事と道中

『さぁ、ここに寝なさい』

『この台の上にですか?』

 石レンガの壁に囲まれた薄暗い部屋の中にふくよかな体型の男が小柄で細身の子供をつれてやってきた。

 その部屋の周りには様々な薬品の瓶に本、何かを拘束するための道具が無数に存在しており、さらに部屋の中央には人が一人寝転べるほど大きなテーブルが鎮座していた。

 そのテーブルの足には、鎖が繋がれており、

 石レンガの個室という事だけでも不気味なのに、テーブルと本が不気味さを更に際立たせていた。

『そうだ。早くしなさい』

『は、はい』

 男にせかされて少年はその台の上に寝転んだ。

 男は少年が指示通りに動いたのに表情を良くすると、テーブルの足に繋がれている枷を少年の手足につけた。

『大丈夫。すぐに終わるよ』

 男の行為に驚いて不安げな表情をした少年に男は優しく言うと、少年の表情から不安が少し消えた。

 それを確認した男は、少年を拘束している台から離れると、無数の本がしまわれている本棚まで行くと、一冊の本を取り、また戻ってきた。

 その表情はどす黒い狂気により醜く歪んでいた。







「ウガァアアァァ!!!」

ハァ・・・、ハァ・・・。

 ゆ、夢か・・・。

 ここは、レスカティエを出て少し離れた野営地。

 レスカティエで旅の準備を終えた俺達は、次の街に向って出発したのだが、次の街へは早くても5日はかかる。

 なので、あまり無理をするのもあれなので、適当な所でテントを立て、早めに休む事にしたのだ。

 いつもの営みを終えて、2人で並んで寝ていたのだが、何であんな夢を見てしまったのだろう。

 震えと全身から溢れる嫌な汗が止まらない。

 あれはもう過去の事。

 終わった事なんだ!!

 なのに・・・、なのに・・・。

 震えが止まらない・・・。

 落ち着かせようとすると、体の奥から恐怖が湧き上がってくる。

 左腹部にあるものを掴みながら、泥沼のような恐怖に震えていた。

「ロイ・・・?どうしたの・・・」

 すると、俺の隣で寝ていたヘカテーが目を擦りながらゆっくりと起き上がった。

「あぁ・・・、ごめん、起こしちゃったね。大丈夫、なんでもないよ」

 ヘカテーに不安を与えないように出来るだけ平穏を装いながらそういった。

 すると、ヘカテーはゆっくりと起き上がると俺の頭を自分の胸に押し付けるように抱きしめてきた。

「へ、ヘカテー?」

「私はいつでもロイの側にいるからね」

 そういって、俺の頭を優しく撫でてきた。

 ヘカテーの手が俺の頭を撫でる度に、俺の中で暴れていた恐怖が次第に落ち着いていった。

 昔からそうだったな。

 俺や妹達が悪夢や不安にうなされると、そっと寄り添って落ち着くまで一緒にいてくれる。

 アホな子だけど、優しい子なのだ。

 それのおかげでどれだけ助かったのだろうか。

 そうして、ヘカテーの胸に埋もれ、撫でられるがままになっていると、俺の中から不安が完全に消え去ってしまった。

「ヘカテー…」

「ん、な〜に?」

「ありがとう」

 そう言うと、握り締めるようにして左腹部をおさえていた手から力を抜くと、ヘカテーの胸の中で静かに眠りに付いた。

「おやすみ。私はずっとあなたのそばにいるからね」




 朝、テントの片づけを終えた私たちは次の街へと移動を始めた。

 ヘカテーのおかげで、昨日の夜のような恐怖は全くなく出発することができた。

「ねぇねぇ、ロイ」

「どうしたの?ヘカテー」

「次に行く町って私の妹がいるところなのよね?」

「そうだよ。魔王様から頂いた地図に書いているし、このコンパスもその町を指しているしね」

 そう言って、私が持つコンパスを見せた。

「それは?」

「リリムの魔力を探知してその方向を指すマジックアイテムだよ」

 これは、私が作ったマジックアイテムで、説明の通り、いちばん近いリリム様の位置を指し示すものである。

 そんなコンパスは、次に行く町と同じ場所を指している。

 魔王様から頂いた市販の地図には世界各地にいるリリム様がいる所が記されているがそれでも全員ではない。

 だから、この地図にいないリリム様方は自力で見つけないといけない。

 そういった時にこのコンパスは力を発揮するだろう。

 今回はテスト運転といった所だ。

 ふむ、今のところ順調である。

「それじゃあ、これがあれが私の妹に会えるのね!!」

 そう言って羽をパタパタと動かして嬉しさを表現する。

 昨日の夜のような母性に溢れる姿とは、凄いギャップを感じてしまう。

 そこが、ヘカテーのいいところでもあるんだけどな。

「ねぇねぇ、他にも何か持ってきたの?」

「ああ、これの他にも色々もってきたけど
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