運命の白い糸

『いやだよ。お兄様とはなれるなんていや!!』

小さな港町。

その一言で町の様子が想像出来てしまう程小さな町。

そんな町に停泊していた船の下で、1人の10にも満たない少女が同じ位の少年の前で涙を流していた。

『ごめんね。でも、ボクは父上と行かないといけないんだ』

そんな少女を見て、少年も少し目が潤っていたが子供の自制心で必死で押さえ込み、涙を流す少女に語りかける。

『いや!はなれたくないの!!』

それでも、少女は引く事無く、幼い顔を涙でグシャグシャにして訴えていた。

それに困惑していた少年は、いい考えが浮かんだのか表情が明るくなった。

『・・・それじゃあ、ゆびきりしよう』

そういって、少年は少女に自分の右の小指を出した。

『ゆびきり・・・?』

『うん。ボクが一人前になったらぜったいにかえってくる』

『ほんと・・・?』

『うん!ボクがやくそくやぶったことある?』

『ない・・・』

『ね?だから、ゆびきりしよう』

『うん・・・』

少女はそう言うと、涙を拭いて自分の右の小指を少年が差し出していた小指に絡ませた。

『『ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼんの〜ます!ゆびきった!!』』

その掛け声で、2人は勢い良く絡めていた指を解いた。

その時の二人の表情は先程のように悲しみではなく、嬉しそうな表情に変わっていた。

『武お兄様!やくそくだからね!!』

『うん。ボクと琴音のやくそくだよ!!』

少年はそう言うと、父親と思われる男性の後を追って船に乗っていってしまった。

残された少女は、その様子を泣きたいのを必死に我慢して見送っていた。

これが、俺と蜘蛛の少女、琴音と最後に交わした約束で最後の記憶だった。








「・・・・・ゃん!・・・・・・・ちゃん!・・・あんちゃん!!」

「ん・・・?」

海風に当たっていたら、どうやらうたた寝していたようだ。

服の上からでも分かる程ムキムキな筋肉を持った船員が少し怒ったように俺を揺さぶっている。

起きて最初に目に入ったのがこれなのは、ある意味気付け薬になるよね・・・。

「ちょっと、あんちゃん!ここで寝られると邪魔なんだよ!!」

「ああ〜、すいません。日差しと海風が気持ちよかったもんで・・・」

「寝るなら船室で寝てくれ!ジパングにはまだかかるんだから!!」

「は〜い」

そういうと、俺は船室へとフラフラと戻っていった。

途中、乗っていた傭兵と思われる男性にぶつかりそうになったが、何とか自分の部屋にたどり着く事ができた。

俺の名前は『斉藤 武(サイトウ タケル)』20歳。

ジパング出身のものだ。

ジパング出身者がどうしてジパング行きの船に乗っているかと言うと、遠い昔、妹と交わした約束を果たすためだ。

「琴音のやつ、元気にしているかな・・・」

俺は5才の時、両親の離婚で妹と離ればなれになった。

妹と言っても同じ腹から産まれた妹じゃない。

父親が魔物との間に作った子供である。

俺は生まれが、親魔物派の国に生まれだから魔物に対して偏見は持ってはいない。

その証拠に俺は子供の頃、琴音と一緒に他の魔物の子供と遊んだこともある。

それはさておき、琴音は俺が生まれた一年後に出来た子だったそうだ。

だから、俺と琴音は物心着く頃から一緒にいたため、本当の妹のように可愛がっていた。

常に俺の後ろを歩くような気弱な子だった。

そんな琴音と最後に交わした約束。

『一人前になったら会いに行く』という約束。

今年の春、俺は少し危なかったが無事に魔法学校を卒業した。

だから、約束を果たすために俺は数十年ぶりの里帰りをしているのである。

「さて、本当に時間もあるみたいだし、一眠りするか」

そういうと、俺は目を閉じ夢の世界に入っていった。










「・・・危なかった。ちくしょ!あの船員。起こしてくれてもいいだろ・・・」

あれからしばらくして、俺はジパングの港につく事ができた。

でも、船員が起こしてくれなかった所為で降りるのがギリギリになってしまったが・・・。

仕事の邪魔をした仕返しだろうか。

「それにしても、ここは相変わらずだな」

懐かしの港町。

町全体は新しくなっているが、幼い頃の記憶にある町並みの面影を残しているのがとても懐かしく感じる。

この町で俺は生まれ、琴音と遊んだ町。

琴音も今年で19。

外見もかなり変わっているだろうから、見つけるのが大変だろうな。

「さて、とりあえず家へ向いますか」

今ここで、悩んでいても仕方ない。

とりあえず、俺が生まれた家に向うことにした。







「景色も変わった所為か、子供の頃の曖昧な記憶の所為か、随分と迷ったな」

まさか、1晩野宿することになる
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