中編

魔王城・糸子仕事場


「ふーん、魔王城では珍しく和室に改装してるのね」
「少しでも着物を作りやすくなればいいなと思いまして」
糸子は慌てるかのように言いながら、押し入れの中から残りのデッサン探していた。
一方、私は彼女とは別の視点、タンスを確認する。
彼女の『記憶』が確かなら、例のデザインは……あった、あの中だ。
彼女が押し入れを漁るのを確認し、髪の毛をタンスの上へ伸ばす。
狙い通りタンスの上に置いてある木箱を落とすと。
木箱が落ちる音に、糸子が驚いた。
振り返ると、木箱の中身が散乱して紙が散らばっていた。
「あら、これは?」
私はわざとらしく、紙の一枚を手に取る。
それは、刀を持った男性(絵に描いたような美男子)が描かれたデッサン。
武士ーー『男性服』のデザインだった。
「すみません、それは趣味で描いてまして、いつか私にもそのような旦那さまが見つかればと」
「へぇー中々良いデザインではありませんか」
こじつけか言い訳かは知らないが、彼女を無視して続ける。
「これも商品として出したらどうかしら、きっと需要があるわよ」
「駄目です」
と、ジョロウグモの糸子は返答する。
まぁこの程度は予想の範疇。これがアラクネならマジギレしていたかもしれないけど。
自慢の糸で衣服を作ることが得意なアラクネにとって、男性服の制作は重い意味を持つ。
何故ならそれを男性に渡すことは婚約の誓いを意味するのだから。
「貴女は『アラクネ』ではない。『ジョロウグモ』よ。大陸育ちでアラクネに感化されたのかもしれないけど、別にそこまでーー」
「それでも私には
lt;
lt;アラクネ属
gt;
gt;としてのプライドがあります」
プライドね。
私も似たようなものだけど。
先ほどのパール様とのやり取りを思い出す。
だからこそ、発想の転換が必要だ。


「だったら、『魔物娘用』として売ればいいじゃない?」


「……へ?」
私の言った意味が理解出来なかったのだろうか?まあ、当然といえば当然か。
「そのままの意味よ。魔物娘が武士の服を着て男装するのよ」
「言ってる意味は分かりますよ。ですが男の格好をする魔物娘ってそんなにいないような……強いて言うならアルプ……でも彼女達は元男だし、やはり需要があるかどうか……」


「臭嗅ぐ夫もすきずき」


「……好き、好き?」
「バブルスライムの異臭を好む夫もいるように、人や魔物娘の好みは様々というたとえ。男装が好みの魔物娘だっているのよ。私の親友フェイは動きやすいという理由でスカートよりもズボンを履いているわ」

他にも、町の自警団にジパング出身のアマゾネスがいて家庭を守るため武士の格好をしていることも伝える。

「魔物娘が武士!?」
女が戦い、男が家庭を守るという男女逆転のアマゾネス、それが武士の家庭となると、武士の格好をするのは魔物娘になる。
糸子はその発想は無かったという顔をして
「早速、作ってみます。魔物娘向けの武士服を、ですので二日待ってください」
「え、二日?」
「はい、女性向けに仕立て直さないといけないので、明後日の早朝までには、着物を含めて三着完成させます。では早速作業に取り掛かりますので退室をお願いします」

「う、うん頑張って」
私は仕事の邪魔にならないよう退室をした。





日帰りのつもりで来たのに。
今夜は寝泊まりかしらね。
先ずは契約書作成と、アラクネ店長に受託販売の連絡をしないと。
場所は、小さい頃、使っていた自分の部屋で行うとしよう。今はあの娘が使用しているけど少し借りるくらいなら出来るはず。


アンジェラ自室(現デュイン夫妻自室)


「失礼します。マリア……じゃなかったアンジェラよ。デュイン、いるわよね?」
返事は無い。
あの娘は、デュラハンで、夫婦共に魔王軍を仕切っているから部屋で今の時間休んでいる訳じゃ……

鍵が開いている。

「失礼します」
私は恐る恐る開けてみるとーー


「あっ、そこよそこよぉ!」
「デュイ、デュイ、チュッ」「ああん、貴男のキスと攻めが同時にっ♪」

ベッドの上で首が取れた状態でキスされながら男性騎乗位をしているデュイン夫妻がいた。

「失礼しましたー」


魔王城・廊下

どこか空き部屋は無いかと探しながら、私は歩く。
旦那様と親友と共に魔王城を離れ、スターシャンに移り住んで百年以上。
もはや百年から数えるのをやめた。
その間に色々なことがあった。

スターシャン復興
親魔物領として開拓
時々くるクリアからの依頼
パール様のご懐妊
そして、何より思い出すのは愛する旦那様との日々。ただしーー

「空き部屋探し、上手くいってる?」


クリアによって、回想を中断された。
「何のようかしら?依頼は終わったわよ」
「依頼は、家に帰るまでが依頼やんね」
「遠
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