第十二話

魔王城・クリアの部屋入口Р
ラヴ&ピーシュ視点Р


「父に詩集のサインを書いてもらうだけの簡単な仕事じゃ」

「大変ピーシュ。ハートのお姉様は本気だよ」
「なんとかしなくちゃ」

ガチャ キィィ…

「早速父の下へ……」
「「あの、女王様」」
「ラヴとピーシュ、どうしたのじゃ?」


「私達のサインじゃ」
「だめ、かな?」
「そなたらのサインじゃと?」

「その詩集をお父様に見せたり」
「よんでもいけないの」
「また倒れるってクリアお姉様から注意された」
「サインがほしいならわたしたちがかわりにかくから」

「「おねがいします」」

「断る」

「そんな」
「どうして?」
「何故なら今のお主らのサインはただの落書きだからじゃ」
「落書きじゃないよ」
「なまえ」
「名の知れた人物の精や魔力を込めた魔宝石が高い人気を誇るように、有名人のサインでなければ価値がないのじゃ」
「私達のサインは」
「かちがないの?」
「無価値と言うわけではない、お主らは魔王の娘リリムじゃ、魔王を尊敬する魔物達はリリムに敬意を払い、魔王を恐れる人間はリリムを脅威とし、時にひれ伏し、中には視姦だけで射精する変態もおる」
「確かにお姉さん達は皆、リリム様って言ってる」
「おとこのひとも、かおをまっかにしながらわたしたちをみてる」
「じゃがお主らはまだまだ経験の浅い子供じゃ、それを踏まえた上で、お主らの名を上げる方法が三つある」


「一つ目はリリムとして国や街を治める主になること」


「二つ目はリリムとして急進派を率いて魔界を拡大すること」


「そして三つ目はラブ&ピースという漫才コンビを組んで人々を笑顔にすること」


「じゃあ、私達は」
「みっつめを」

「余は三つ目以外の道を勧める」

「何で?」
「どうして?」
「確かにお主らの漫才は面白い、楽しいことが好きな不思議の国の住人達も同じことを言うじゃろう。じゃが全ての人々が同じことを言うとは限らん、中には笑い自体を否定する者もおるじゃろう。人間や魔物を笑顔にすることはお主らの想像以上に険しい道じゃぞ、不思議の国のようにな」
「不思議の国って」
「たのしくないの?」
「……余も自由気ままに不思議の国を作ったが、楽しい事ばかりでは無かった。バイコーン夫妻によるフォーカードの一斉引き抜き、貨兵の流出及び大量複製、不眠症のドーマウス等々、余の手では負えん問題に何度直面したことか」

「ハートのお姉様」
「くやしいの?」

「神に等しい魔術の才を持つ余でも苦労したのじゃ、今は解らぬともお主らが漫才を続ける以上、いつか大きな壁にぶち当たるじゃろうな」

「それでも私達は」
「みんなをえがおにしたい」

「……その心意気だけは買っておこう。この話は終わりじゃ、余は父の下へいく」

「待って」
「いかないで」

「名高い我が父の詩集じゃ、本人のサインがあれば相当な価値がつくし、生涯の自慢となろう」

ガチャ ギィィィ…


「待って、女王様」


「……ビューティ、余を引き止めるとは何の真似じゃ?」
「あたしも、その詩集に、サインする」
「お主がか?さっきも言ったじゃろ、名が知れた人物のサインでなければーー」
「あたしは、何百年も世界中を旅して、人間の女性を一人一人、魔物に変えてきた」
『エネミス帝国のピスコだけじゃなくゥ名家のお嬢様をワイトに変えたりィ情熱が取り柄の研究者をバイコーンに変えたよォ』
「急進派としては当然のことじゃな」
「ただ魔物に変えた訳じゃない、魔物化後の生活や、夫探しの手伝いもした」
『エネミス帝国の維持やァワイトと敵対してた家の長男との駆け落ちを手伝ったりィ最近はァバイコーン研究者のハーレム用としてェゴーレム作りを手伝わされたよォ』
「ジパングや、霧の大陸にも行った」
『恋花のママの昴がァジパング出身だったねェ』
「恋花とは今まで面識は無かったけど、彼女はあたしを尊敬してた。だからきっと、不思議の国にも、あたしが魔物に変えた住人や、あたしの名前を知る人はいると思う。だから、あたしのサインがあれば、自慢になる」


「私もその詩集にサインするわ」
「ウチもやんね」


「アンジェ姉さん、クリア」

「お主ら二人もサインするのか、大して名を広めていないじゃろ」
「女王様、不思議の国での私の活躍をお忘れかしら?ドレッサの不眠治療に貢献しましたわ」
「うっ、確かに一応知名度はあるのう、一応はな」

「ウチは魔宝石コレクターを目指してるんよ。女王様はその支援としてウチに魔宝石をいっぱいくれたんやろ?」
「あれはほんの気まぐれで……」

「私とピーシュのサインは、ハートのお姉様から見たらただの落書きかもしれない」
「でもいつかきっと、サインしてよかったといえるくらい、がんばる」

「女王様、パ
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