追込の壁際と放電の琴線

Μ郷愁の霧・マドラ宅中庭Μ
Μ初太視点Μ


「でもエリンはね、今はとっても幸せなの」

突然エリンの表情が変わる

「頭の中はキノコや菌糸でいっぱい」

「ここは幸せな国だよ。過去なんて気にしなくていいの」

「人を喰らう魔物に怯えなくていいの」

エリンは手を伸ばして

「だから、マドラちゃんもこっちにおいでよ」

微笑みながら此方へ誘う――


Μ不思議の国・不思議美術館Μ
Μ満知子視点Μ


「旧魔王時代、それは今の魔王が世代交代する前の時代」

「エリンちゃんが旧魔王時代から来た、それはつまり君は過去から来た!」

「つまり、彼女は歴史の生き証人ってことだよ!」


「へーくん、食いついている暇があったら、ビニール製のサキュバス人形に空気を入れてよ」
「満知子、少しは驚けよノリ悪いな〜」


「最初に言っておくが、エリンにはここにくる以前の記憶が殆ど無いから、琴線に触れるようなことはするなよ?」
「もうギウムったら…正確には思い出せないのです。まるで頭の中に菌糸が張っているかのように……」

そういえばキノコに寄生された女性は頭の中に胞子が送り込まれるというわね。

「でも忘れたわけじゃありませんよ。時々思い出すかのように菌糸が解れることもあります。さっき言った昔の魔物の姿とか、教団の勇者さんが魔物からみんなを守ってくれたこととか」


「魔物を守る勇者か、余計旧時代の魔物を見てえぜ〜」
「平也クン、旧時代の魔物を見ても何の得にならないと思うよ。下手すれば一生もののトラウマになるかもしれないよ?」
「コルヌさんは夢が無いな〜ジャバウォックだって旧時代の姿になれるじゃねーか」

満知子覚えてるよな、とへーくんがアタシにふる。

「この国に来たとき、竜が住まう丘でモンスターのドラゴンが飛ぶところを見たこと」
「ドラッケンヒルズのことね…」


アタシがまだ人間だった頃、へーくんと一緒に不思議の国を放浪していた時に立ち寄った多くのドラゴン属が住まう丘陵地帯

ジャバウォックの他にも龍やワイバーンが飛び、地上ではワームが走っていたわ


着物からわかる龍の胸元

飛翔や着地、そして旋回する度に揺れるワイバーンの胸

脳に送るはずの栄養までもが溜まってしまったのではないかと思うほどのワームの爆乳

そして、ジャバウォック達が夫に巨乳を押し付けたり、巨乳でパイズリしたり、夫から巨乳を揉まれたり、抱き合って巨乳が潰れたり、巨乳巨乳巨乳!


「ああ〜参ったわ、思い出しただけでムカムカしてきた! 何でドラゴン属はみんな巨乳ばかりなの! 身体を縮めて人になったときに圧縮した細胞を胸に集めたわけ?」

「大変、満知子さんがキレてるよ」
「エリンちゃんが気にすることないさ、満知子は自分が貧乳なのを気にしてるだけだ。魔物化しても大して膨らまなくてさ」


「何が巨乳よ、ぐぬぬ」
「落ち着けよ満知子」
「へーくん、これが落ち着けるわけ!?」
「オレの顔を見ろよ」
「マーチヘアは巨乳なのにどうしてアタシだけ!」
「怒る満知子も素敵だよ」
「はぁ、素敵? へーくんはいつも巨乳に鼻の下を伸ばすくせに」
「それでも満知子が一番さ」
「一番って何よ、普段はそんなこと、言わないくせに……う〜」

アタシは顔を真っ赤にしながらしゃがみこむ

「よし、これで暫くは大人しくなるだろう」
「それが平也君なりの伴侶の宥め方なのですね。勉強になります!」
「エリンちゃん、参考にしてくれてセンキュー」


「とにかく旧時代のドラゴンとは訳が違う。このボクでさえも貯蔵庫にある巨大ネズミの群れが死体を食らう絵画を見たときは心臓がバクバクしたくらいだ。それこそマドラなら恐怖のあまり悲鳴をあげるだろうね。あの娘は反魔物領出身だから……」

「……」

へーくんは旧時代の話題を止めると、ギウムと共にビニールの空気入れを再開する。


シュコシュコ…


「君のその怖いもの見たさ、わからなくもないよ」

不意にギウムがへーくんに呟く

「僕も前の世界では兵士として異形の化物と戦う覚悟で、叔父……いや隊長の下で特訓していたから」
「お前も反魔物領の出身か?」

シュコシュコ

「教団管轄のね。魔物は女性に化けて人を喰らうと教え込まれた」
「それで何だかんだで今の魔物は人を愛する真実を知ったのか」

シュコシュコ

「いや、僕が目の当たりにしたのは知りたくもなかった事実だ」

シュコシュコ

「あの悪魔達のせいで……」
「……すまん。琴線に触れるようなことを言ってしまって」


シュコシュコ…ピーン


ようやくビニール製サキュバス人形が完成

すると人形の全身が光り、周囲を包み込む――


M盤上の部屋M


「あれは何かしら?」

転送されたアタシの目に映ったものそれは――
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