紅茶香るばいく屋と紅茶飲ませる眠り鼠

Μ不思議の国・キョウシュウマウンテン第三階層頂上Μ
Μ初太視点Μ


「俺達は下山した筈だろ?下り坂に向かって歩いてたし」
「深いクレーターだと聞いてましたが、山を下ってると勘違いするほど深かったなんて……どうしましょう、どうしましょう」

マドラがお嬢様口調へ戻るほど冷静さを失っている。


どうする?


こんな時、せんせーだったら……きっとこうする。


俺は何も言わずマドラを後ろから抱きしめる。

腕の温もりが伝わるくらいぎゅっと。

「初太……」
「また登ればいい」
「えっ」
「クレーターを下りたなら、クレーターを登って、今度こそ山を下りればいい」

マドラが俺の手を握る。

「だから一緒に行こう」
「はい」

マドラが微笑む。

「この手は絶対離さないからな」

俺はマドラを連れて歩き出す。



歩いた先に建物が建っていた。



「こんな所に家なんてありましたかしら……イタッ……初太、手を強く握りすぎです」
「ごめんマドラ、目の前に俺の家が現れたから…」
「えっと、わたし達の家とは違うような……?」
「俺達がせんせーと暮らしていた家だ」
「そうなのですか?」
「それだけじゃない。周りに建ってる家も、道路も、ミラーも、何もかも同じだ。俺は――」



「故郷へと帰ってきたんだ」



Μばいく屋Μ
Μ満知子視点Μ


店に入ると、紅茶の香りが漂ってきた。

「店の奥に微かかニャがら初太の精の痕跡を感じますニャ…」
「紅茶の香りしかしないけど?」
「魔物娘は男性から放たれる精を認識することが出来ますニャ…」
「確かにへーくんの匂いなら判るけどさ」
「チェルは庭師の仕事をしてますから匂いに敏感ですニャ…」
「店の奥って言ってもどこまで歩けばいいのよ」

参ったわ

小売店のような外見と裏腹に店内は大型店すら狭く感じるほど広く、左右に隙間なくぎっしりと並べられたばいくが連なっていた。

「ばいく一台一台に値札、車種と備考が手書きで書かれているわね」
「オレ達の故郷にありそうなばいくばっかりだな」
「参ったわ、ばいくに詳しくないアタシでも、見覚えのあるメーカーばかりじゃない」

「ここでは古今東西あらゆるばいくが千台以上展示・販売されてますニャ…」
「流石不思議の国、別空間にばいく千台あっても不思議じゃないわね」
「それだけ轟店長はばいくにうるさい人ですニャ…」
「轟店長?」
「この店の店主で、頑固者で有名な人ですニャ…それはもうばいくニャんてどれも同じと言ったら、平地を走る「おんろーど」と障害物を楽々進める「おふろーど」を一緒にするニャと…」
「確かに知らない人から見たらばいくなんて同じように見えモゴモゴ」

チェルが強引にアタシの口を塞ぐ。

「ニャ-!轟店長の耳に入ったらマズイですニャ!下手したらニャン時間もばいくについて聞かされて案内どころじゃニャくニャりますニャ!」
「ムー!ムー!」

「道理でばいく屋に行く話になってから、チェルちゃんの元気が無いと思ったよ」
「ムー!ムー!(へーくん、一人で納得してないで助けてよ!)」

「見ろよ、整備用の工具箱やパーツが置かれた棚、隣には作業机もあるぞ。轟店長のばいく愛が伝わってくるぜ」
「その通りですニャ、流石お目が高い」

チェルの手がアタシの口から離れる。

「ゼェー、ハー」
「満知子、大丈夫か?」
「……うん」
「とりあえず奥に進もうぜ」

少し歩くと休憩所らしき場所を見つけた。

「ふーん、椅子三つに簡易テーブルが一つ。本棚にあるのはばいく漫画か……店員同士が気軽に話し合いをする場所って感じだな」
「参ったわ、お茶会には向かない場所ね」
「見ろよ満知子、壁一列に魔導写真入りの額縁が並んでるぞ」

一番手前の写真はボロボロの作業着を着た男性と幼い魔物が写った写真。
下には『ばいく屋開店記念 轟走助 轟ドリフト』と書かれてある。

「仲良し父娘って感じね」
「いえ、彼女は轟店長の奥さんですニャ。種族はドワーフで、一見幼い容姿ですが立派な成人ですニャ」
「そうなの!?」

「良かったな満知子、満知子以上の合法ロリな種族がいモゴモゴ」

アタシはへーくんの口を抑えながら写真見学していると、アタシ達にこの店を紹介してくれたばいく愛好家、ライドが写っていた。

「彼も常連客なのね」
「プハッ、隣にはライドと花嫁姿のバックもいるぞ」
「他にも夫婦で写っているものが沢山あるわね」
「こっちはつぶらな瞳が特徴のオークが四つん這いで騎乗されてるぜ」
「夫の方は何だか運命的な出会いをしたって顔をしてるわ」
「青いヘルメットを被ってるから表情は判らないけどな」
「いいじゃない、ポジティブな妄想をしたって」

他にも様々なカップルが飾られていて、眺めるだけでもこの店の歴史が伝わ
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