こんなデーモンはどうでしょう?

 「それでこの前、旦那に世界一の夫婦になろうって言われたの♪」

 「あら♪素敵な夢ね。ンフフ、そういうの良いと思うわ」

 紅茶を口に運び、デーモンのレアとヴァーミリアスはお互いの惚気話を楽しんでいた。
 そんな2人を眺めながら、デーモンのガナドゥールは静かに紅茶のカップを置いた。
 レアとヴァーミリアスはガナドゥールにとって先輩デーモンである。2人はかつて過激派として世界を魔界に変えるべく暗躍していた。しかし、お互い旦那として契約した人間の男性を得て以来、現場を離れ隠居生活という名の結婚生活を満喫している。レアは初陣で1つの国を魔界へと落とし、ヴァーミリアスは人間同士の紛争を止め、そのまま魔界へと変えた功績を持っている。そんな彼女達が第一線から身を引いた事実に動揺は走ったものの、旦那を得たとなれば止める者はいない。
 そもそも、魔物娘にとって夫を得て愛し合う事は何よりも優先されるべき事であり、その祝福すべき事実に異を唱える者はいなかった。
 しかし、ガナドゥールは異を唱えこそしなかったものの疑問を覚えていた。
 そんなガナドゥールの態度に違和感を覚えたのか、2人は惚気話を止めた。

 「ガナドゥール?どうしたの、体調でも悪いのかしら?」

 「いえ、そういうわけでは…」

 心配したのか、ガナドゥールの顔をレアが覗きこんでくる。ガナドゥールは頭を下げ苦笑した。
 ヴァーミリアスは申し訳なさそうにティーカップを置き、机に置かれたガナドゥールの手に自分の掌を優しく包むように乗せた。

 「人間界侵攻で貴女も疲れているわよね?ごめんなさい、こんな忙しい時に尋ねてしまって…」

 「そ、そのような事はありません!ただ…」

 謝るヴァーミリアスにガナドゥールは慌てた。
そんなつもりはない。この2人は自分にとって尊敬できる先輩だ。その2人が訪ねてくるというのなら疲れなど言い訳には出来ない。
 それ以前にガナドゥールは人間界侵攻を苦に思った事は無い。
 ガナドゥールという名は彼女の父親が付けた名であり、父親の故郷で「勝利する者」という意味だそうだ。その名の通り、彼女は人間界侵攻を何よりも好み、魔界へと変える事に至上の喜びを感じていた。勝利すると言っても人間を傷つける、命を奪うような事は絶対にしない。それはガナドゥールの最も忌むべき行為であり、血を流す勝利など勝利とは言えないと考えていた。
 彼女が勝利する相手は人間の歴史であり、その上に人間と魔物娘の歴史を刻んでこそガナドゥールの考える勝利なのだ。
 勝利こそ極上の快楽と考える彼女は他のデーモンだけでなく、魔物娘と違い愛する夫を得る事にそこまで執着していなかった。もちろん、全く興味が無いわけではない。それどころか、ガナドゥールだって想像上の旦那に想いを馳せる事はある。
 しかし、そんな相手と巡り合った事は無いし、今は何より魔界を広げる事が最優先されるべきなのだ。
 だからこそ気になった。

 「ただ…その、誰かを愛するというのはどういう気持ちなのでしょうか?」

 レアもヴァーミリアスも夫がいる。そんな2人だからガナドゥールの疑問に答える事が出来るだろう。
 しかし、2人はその言葉に目を何度か瞬きし、レアはニンマリと意地悪く笑い、ヴァーミリアスはフフッ笑い口元に両手を当てた。

 「そうねぇ…ンフフ♪とっても素敵な事よ?」

 「レア様…そのように言われましても、自分にはよく分からないのですが」

 「あら、当然でしょ?だってそれ以外に言いようがないし、私の夫への愛を言葉にする事は出来ないもの」

 レアの言い様にガナドゥールはムッとしたが、何か言う前にヴァーミリアスがパンと手を叩いた。

 「そうよ?愛は言葉にできないし、私達が何を言ってもガナドゥールは納得できないと思うわ」

 「はぁ…」

 「だ・か・ら♪」

 ヴァーミリアスは何か思いついたようにニヤリと笑う。チラッとレアの方にも目をやると、レアはヴァーミリアスが何を思いついたのか察したようで意地の悪い笑みを浮かべた。
 それはさながら悪戯を思いついた悪ガキのようだった。そして、ガナドゥールは哀れなターゲットだ。
 気が付けば2対1であり、場の空気はあちらに流れている。
嫌な予感をガナドゥールが感じると、ヴァーミリアスが身を乗り出してきた。

 「今から人間界に行って旦那様を見つけてくればいいのよ!」

 「……はい?」

 「うんうん♪それがいいわね、さすがはヴァーミリアス♪」

 「ちょ、ちょっと待って下さい!自分は今、侵攻の準備中ですし、そんな暇は無いですよ!?」

 「有休取ればいいじゃない。どうせ有休使ってないで貯まっているんでしょう?」

 「そりゃあ…まぁ」

 「だったら行ってきなさいよ♪旦那探しなら誰も文句は
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