「何だ…あれ」
霧が深く、薄暗い雨上がりの山道でマサトは首をかしげた。
人の形をした影が飛び跳ねながら、ゆっくりと近づいてくる。最初、マサトはそれが幻だと思った。しかし、近付いてくるうちにそれは幻ではなく、魔物娘だと分かった。
生気を感じられない青白い肌に虚ろな瞳はここではない何処かを見つめているが、マサトを捉えている。半開きの口からはうめき声が漏れ、顔の前に貼ってある巨大な札がひらひらと左右に揺れていた。服の上からでも分かる巨乳は少々垂れ気味ではあるが、形は整っていそうだ。飛び跳ねるたびにブルンと揺れるのが目に毒だった。
(キョンシー…か?初めて見たな)
霧の大陸固有種のアンデット系魔物、キョンシー。
最近確認された新種の魔物娘であり、未だ分からない点も多い。霧の大陸に生息しているはずの魔物が何故、ここにいるのかも分からない。ギルドでもその情報は把握できていないと噂には聞いた事があった。
考えても分からない問題に悩んでも仕方がない。早く逃げる必要がある。
しかし、マサトは全くと言っていいほど焦っていなかった。
何故ならこのキョンシー、はっきり言ってとてつもなく遅いのだ。
「ウー……」
何か言いたいのだろうがそれは言葉にならず、呻き声となって口から洩れる。ピョンピョン飛び跳ねているが、全くと言っていいほど距離が縮まらない。マサトが数歩下がるだけで、簡単に距離が離せてしまうほどだ。これなら亀の方がまだ速い。
(こいつ、何がしたいんだ?)
遅いとはいえ近付いてくるのだから、マサトを襲うつもりなのは間違いない。キョンシーは人間では太刀打ちできないほどの怪力だと聞いた事がある。掴まれれば逃げる事は敵わないだろう。
もっとも、マサトに近付くつもりは無い。見えている罠を踏む馬鹿はいないのだ。
それにこのキョンシーは近付かなければ何もできない。歩いているだけで振り切れそうだ。
「ウー…ウゥーッ……!」
不満そうなうめき声を上げるキョンシー。しかし、何を言いたいのか分からないし、分かりたいとも思わない。動きが少し速くなったが、やっと亀より速くなった程度だ。
キョンシーは徐々に距離を縮めてくる。しかし、マサトが少し下がればその距離は開く。
すでに結果の見えている鬼ごっこだった。
「ウーッ……アァーッ……」
「……」
触らぬ神に祟りなし。昔の人はよく言ったものだ。
「キミに何が出来るのかなぁ…?」
ため息交じりに呟くとマサトは背中を向けて歩き出した。
すると、キョンシーは唸り声を大きくし、少しでもマサトに近づこうとより速く飛び跳ね始めた。それでも遅い。
「ウー…ムー…ン、アァ…フゥ…ン」
「…?」
ふと、唸り声の中におかしな声が混じっている事にマサトは気が付いた。生気は無いがどこか艶のある声。
気になってマサトが振り返ると、キョンシーはその場に立ち尽くしていた。
そこで立ち尽くしているだけなら問題は無かった。
キョンシーは自分の胸を揉み、秘所を弄っていた。
「……な、はぁ?」
「オー…ア、ンンッ…」
(本当に何なんだ、こいつは…)
こんなやる気の無い自慰、見た事も聞いた事も無い。そう言えるほどそれは機械的で、何とも言えない残念なものであった。
それ以前に意味が分からない。何故、ここで自慰をし始める?何の意味があるのか。マサトに追いつく事を諦め、自分で慰める事にしたのか。
いや、それは無い。
キョンシーはその空虚な目でジィッとマサトを見つめているからだ。その瞳には確かな執念のようなものが感じられる。
(???)
だから、マサトは困惑した。
まるで氷の魔法で凍りつけにされ動けなくなったようにその場から動けなかった。
「ン…あフゥ……ん、い…アあァぁ…」
次第にキョンシーの動きが滑らかになっている事にマサトは気が付いた。服の上から胸を揉む手の動きが最初はたどたどしかったが今は乳首をつまんだり、マサトに見せつけるような動きへと変わり、秘所を弄る指も突起をこすったり爪でひっかくような細かな動きになっている。
その表情も次第に熱に犯されたように、頬がやや赤く染まり生気が戻ってきている。空虚な瞳が今は確かな意思を持ち、マサトを見つめている。
(ま、まさか…!)
マサトがその可能性を考えたのと、キョンシーが動きを止めたのはほぼ同時だった。
自慰を止め、手を握ったり開いたりして体の動きをキョンシーは確認している。
「……よシ」
(こいつ…自家発電しやがった!)
キョンシーは性的興奮で体が滑らかに動くようになるのか、ギルドには無かった情報だったが、風の噂には聞いた事があった。襲われた冒険者によれば、最初はぎ
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