「ククク…懲りないわねぇ、人間も」
「……」
金銀財宝が無造作に床に散らばっている王室、簡易だが気品差を感じられる王座で腕を組み見下ろしてくる魔物…アポピスのラヴィーナを前にしてリュウガは立っていた。
紫色の肌に見事な作りの銀細工、整った顔を歪め呆れ気味に笑うラヴィーナ。普通の人間ならば彼女に恐怖し、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうだろう。
だから、ラヴィーナはリュウガもそうだと思っていた。唯一違うのは彼が他の勇者気取りや傭兵とは違い、何の役にも立たない糞のような前向上を述べなかった事だった。それは恐怖している自分を隠すための誤魔化しである事をラヴィーナはよく知っている。
しかし、リュウガは不気味なほど無言だった。
その態度にラヴィーナは疑問とちょっとした不安、そして淡い期待を抱いた。
(この人なら…いや、考え過ぎよね)
馬鹿な考えを振り払うようにラヴィーナは立ち上がった。紫色の鱗を持った蛇の下半身が大きく揺れる。
「さぁ、来なさい!自分の愚かさ!無力を思い知り、このラヴィーナ・ウル・スネコバの前に敗北しなさい!!」
それでもリュウガは動かない。実の所、リュウガはラヴィーナが考えているような事を考えていなかった。
全く別の事を考えていた。
「……」
(やべぇ、超タイプだ…!!)
リュウガはラヴィーナに一目惚れしていたのである。
砂漠に隣する反魔物領の城塞都市。そこでは教団の教えが広く教えられ、そこに生きる者にとって教団の教えは絶対であり真実である。
魔物は人類の敵、滅ぼさなければならない悪しき存在。
それ故、この城塞都市では度々砂漠にて魔物狩りが行なわれていた。帰ってくる者もいれば、帰らぬ者も多いその戦はいつ終わるとも知れず、どこまで続くのか、誰もが思ったが教団の唱える正義の聖戦であると誰もが信じて疑わなかった。
正義の聖戦ではあるものの、慢性的な人員不足に悩まされているのは変わりもしない事実である。だから、余所から傭兵が訪れる事も珍しくはない。
リュウガもまたそんな傭兵の1人であった。
日に焼けた黒い肌、獅子の如く逆立った銀髪に鋼のような巨体を黒い鎧に包んでいる。背中には畳1枚ほどの大きさを誇る大剣が陣取っていた。
「……」
リュウガは無言でグラスに入った白い液体を一口飲み、静かに座りなおした。屈強な男達を見慣れているはずの酒場のマスターは居心地悪そうにグラスを磨き、チラチラとリュウガを見ている。先ほどまで騒いでいた傭兵達もリュウガを見るとすごすごと店を出て行った。その原因をリュウガはよく知っている。
顔だ。
リュウガは致命的と言っていいほど人相が悪いのだ。幼少の頃より鬼の顔、顔面阿修羅と呼ばれ、騎士団に入団を希望すれば即座に断られ、傭兵団に入ろうとすれば魔物より恐ろしいと言われ、護衛の仕事に就けば対象が怯える始末なのである。
そのような調子なのでリュウガは仕事にも就けず、文無し宿無しであった。
「……」
「お、お客さん…」
マスターは無言でグラスを見つめるリュウガに声をかけるが、一睨みで黙り下がってしまう。もちろん、リュウガは睨んだわけではない。ただ呼ばれたからマスターを見ただけだ。
「……」
(そんなにビビらなくてもいいだろ…)
内心、泣きそうになりつつも決してそれをリュウガは見せなかった。
マスターは再び話しかけてくる。
「お、お客さん…酒はいらないんですか?」
「……」
「お客さん、さっきから酒を頼まないでミルクばっかり飲んでいるじゃないですか?」
「……」
(…いいだろ、別に)
「何か理由でもあるんですかい?その…宗教上の理由とか…?」
「…そのような理由ではない。酒を飲み、油断した隙に寝首を掻かれては先祖に示す顔が無い……」
(何で金を払ってまであんな気持ち悪くなるモン飲まなきゃならんのだ…)
大層な事を言ったが、リュウガは下戸であった。
とっさの言い訳になるほどとマスターは頷き、グラス磨きに戻った。我ながら上手く取り繕う事が出来た、とリュウガは内心ほくそ笑み一気に牛乳を飲みほした。
空になったグラスをテーブルに置くのと、後ろから声をかけられたのは同時であった。
「そこの黒き剣士様、よろしいかな?」
「!!」
リュウガが振り返るとそこに1人の男がいた。髪を剃った頭に左腕には聖書を抱えている。人当たりの良い笑みを浮かべてはいるが、気配を感じさせずリュウガの背後を取った腕は只者ではない。
それが例え神父だとしても。
神父はリュウガの顔を見ると顔を引きつらせ1歩下がったが、すぐに先ほどの笑みを取り戻しまた1歩近づいた。
「私、アル・フォボスと申しま
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