とある城下町。
そこは魔物娘と人間が互いに支え合って生活している。人間は魔物娘の力を、魔物娘は人間の知恵を。
そんな町にある1つの幼稚園。魔物娘の子どもと人間の子どもが通っているその幼稚園では教育はもちろん、将来のパートナーを選ぶ場としても機能している。小さい頃から多くの経験を共にし、お互いのことを知っていく。それが意外にも好評であり、この幼稚園に入園希望する者は後を絶たない。
そんな幼稚園の園長室、ジオ・R・グローブは園長の白澤、ロデュウに呼びだされていた。
「グローブ先生、お仕事には慣れましたか?」
「まぁ、ボチボチっすね。最初はこんな30近いオッサンで大丈夫かと思いましたが、最近は子ども達も自分を見てビビらなくなりましたから」
黒みがかった赤い髪、右目には眼帯。まるで丸太のような手足にガッチリとしたジオは絵に描いた傭兵のような男だった。可愛らしいクマの描かれたエプロンを着けていても変わりはしないが、どこかシュールだった。
「フフ、子どもは素直ですから。最初は怖がっていてもグローブ先生がとても優しい人だって分かったから、今は人気者ですね」
「怖いって言われるのは慣れてますよ。ガキの頃から言われてるんで」
「コラ」
今までニコニコしていたロデュウはムッと頬を膨らませ、ジオの額をコツンと指でつついた。
「いだッ」
「もう、駄目ですよ?そんな言葉使いしちゃ。子ども達が真似したらどうするんですか?」
「うっす…いや、はい。気を付けます」
「はい、よく言えました♪」
ジオの言葉に満足したのかロデュウはまたニコニコとした笑顔に戻り、まるで子どもをあやすようにジオの頭を優しく撫でた。ロデュウも背は高いが、さすがにジオには敵わない。一生懸命背を伸ばし、爪先立ちになってまでジオの頭を撫でるロデュウはまるで背伸びして大人ぶる子どものようだった。
ロデュウは博識であり頼れるお姉さんのような存在だったが、時折こういった子どものような事をするから微笑ましい。そんな彼女に憧れる男性職員も多い。
(敵わないな、この人には)
頭を撫でられながらジオは苦笑した。
しかし、ジオは首を傾げた。
「ロデュウ先生、今日はこのために自分を呼んだんですか?」
ジオはロデュウに呼びだされてこの園長室にいるのだ。それを忘れたわけではない。
ロデュウは頭を撫でるのを止め、困ったように頬を掻いた。
「今日呼びだしたのは“彼女”のことです。実は……」
「おい、そこのガキ2人ッ!ちょっとこっち来いッ!!」
幼稚園に不似合いのドスの利いたがなり声、それだけで園児達の肩はビクンと震え、その声に呼びだされた2人の子どもは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
それに構わず“彼女”はドスッドスッと足を鳴らし、身体を硬くした子どもを両手で1人ずつつ襟首をつかんで持ち上げると顔を近付けた。
漆黒の肌に艶やかな毛を頭の後ろでまとめポニーテールにしている。深紅の瞳はまるで溶岩のようである。ウサギの描かれたエプロンを付けていても彼女の迫力を和らげることはできなかった。
彼女はヘルハウンドのクーガー、ジオと同じくこの幼稚園の先生として働いていた。
ガルルと唸り声を上げ、子ども2人を持ち上げている彼女は今にも子ども達を食べてしまいそうなそんな危険を感じる。しかし、そんな事はせずクーガーは眉を吊り上げ子ども達を睨んだ。
「道路で遊んだら危ねぇって何回も言っただろうがッ!馬車が来たらどうすんだ?あ?」
言っている事はまともであるが、その口調と怖い顔で台無しである。
クーガーに掴み上げられている子ども2人はすっかり怯えた様子で目に涙を浮かべ何度も首を縦に振っている。
「分かったら返事ッ!これも何度も言ってんだろうがッ!!」
「ハ、ハィィィッ!!」
悲鳴に近い返事にクーガーは鼻を鳴らし、子ども達をそっと地面に下ろした。
しばらく子ども達は怯えた表情でクーガーを見上げていたが、泣きながら教室に入っていった。
そんな様子をジオとロデュウは柱の陰から見つめ、ジオは顔を手で覆い、ロデュウは頭を抱えている。
「あ、あの馬鹿ッ」
「要件はこの事なんですよ、グローブ先生…」
疲れたように呟くロデュウの言葉にジオも頷いた。
「…難しい要件ですね」
「彼女の言っている事は正しいんです。でも、言葉とあの態度じゃ…」
「……ヘルハウンドってあんなガラの悪い種族なんですか?」
「違いますね。個人差はあれど、あそこまでガラの悪いヘルハウンドは大陸中を探しても彼女だけだと思います」
ヘルハウンドは本来、火山地帯や魔界などに生息する凶暴な魔物娘である。彼女達は獲物となる人間の
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