9月○日
最近になって、ようやくリリルルシアが口を開いてくれるようになった。
「バフォメットが、貴女の事を呼んでいる。」
で、さっそくバフォ様の部屋に向かってみる。と、どうやらレスカティエに向かった魔女から、初めて連絡が着たようだ。
ビブロフさんから、リリルルシアが持っていた本の記録をレスカティエで見たことがあると聞いて以来、ずっとレスカティエから連絡を待っていたのだ。
が、まさかこれほど時間がかかるとは・・・。これなら、連絡を待たずに私から行った方が早かったかも・・・。
バフォ様の部屋では、水の張ってある大きな盆を使ってバフォ様と魔女が連絡を取り合っていた。水面には、レスカティエにいる魔女が映っている。
「それが、レスカティエには箒でひとっ飛びですからね〜。すぐに着くことは着いたのですが・・・。」
「その割には、連絡までだいぶ時間がかかったようじゃの〜。」
「それが・・・。」
水面に映る彼女の顔は、どこかバツが悪そうである。
「一応、この国の女王様に挨拶しておこうと、城に向かったのですが・・・。そこから脱出するのに、だいぶ時間がかかってしまいました。」
そういう彼女の肌は、どこかツヤツヤしている気がする。
「そんな事はどうでもいいわ。」
「ムギュ〜。」
そう言って、私はバフォ様を押しのけ彼女との会話に割り込んでいった。
「貴女の居ない間に、こっちでは大変な事が起こっているのよ。」
「何か事件でもあったのですか?」
「ええ・・・。だから、貴女にそっちで調べてもらいたい事があるのよ。」
・・・
「そんな事が起こっていたのですか・・・。」
「ビブロフさんが言うには、例の本は今から数代前の魔王が、勇者に対抗するために異界の知識を得ようと、この世界に召喚した本を元にして書かれたらしいの。」
「数代前の魔王ですか?」
「ええ。」
「でも、なんで魔王が持っている本がレスカティエに?」
「理由は簡単。その魔王を倒した勇者というのが、レスカティエ出身だったのよ。」
「なるほど。」
「勇者が持ち帰った魔王の遺物の中に、その本があったらしいわ。その後、その本はレスカティエで翻訳作業に取り掛かれたらしく、それらを元にして件の本が作られたらしいのよ。」
「分かりました。それじゃあ、そこら辺の事はお任せ下さい。なにしろ、魔界に堕ちてからは、そういった国家機密系のものはあまり重要視されなくなっていますからね、昔に比べてだいぶ調べやすくなっていると思いますから。」
まあ、今のレスカティエにとって、せいぜい夜の生活に関する事が最重要機密で、それ以外はおざなりになっているのだろう。
・・・
この街の領主である、ヴァンパイアのカルメシアは椅子に腰かけながら、夫に肩を揉ませていた。
「このところ、立て続けに事件がおきて、妙に肩が張ってしまうわね。」
彼女の肩を揉みながら、執事服の彼女の夫が話かける。
「しかし、例の変死体がよく教会のスパイだと分かりましたね。」
「ここは、反魔物領に隣接する街だからね、そういった連中が越境した場合、情報が入って来るようになっているのよ。」
「なるほど。」
具体的にどういう仕組みなのかは、あえて聞かなかった。
「しかし、今回はまいったわ。1件目に続き、2件目の事件かと現場に行ってみれば、件のスパイが死体になっているのだからね。」
「そういえば、スパイは何の目的でこの街へ?」
「さあ?」
「え?知らないのですか?」
「私はただ、凄腕の要注意人物が入り込んだと聞いただけよ。」
「そうなのですか。」
「例の失踪した騎士といい、死んだスパイの目的といい、こちらも何かしら探りの手を打ったほうがいいようね・・・。」
スパイの目的も気になるが、彼女には別に気になる事があった。
この街に来た教会のスパイは、彼女が聞いた話では“凄腕の”要注意人物であるらしい。だとしたら、それだけの人物を殺害できる者がこの街にいる事になる。
「私に、戦闘の気配すら感じさせずに、街中でどうどうとスパイを殺し、死体を隠す訳でもなくさらしていく殺害者か・・・。」
最初は、この街のサバトの連中かとカマをかけてみたが、どうやら違ったようだ。
しばし彼女は考えを巡らせると、夫にこう言ったのだ。
「そろそろ収穫の時期だけに、行商人の例の刑部狸が来る頃だわ。彼女に、頼みごとをしてくれないかしら?」
「はい。」
そう言って、彼女の夫は部屋から出て行った。
その間も、彼女は考え事をしていた。考えている事は、むろん今までの3件の事件である。
周囲には公表していないが、1件目と3件目には共通した奇妙な点が在る。
それは、死体は共通して喉を切り裂かれているにもかかわらず、周囲にまるで血痕
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