午後の授業が始まり頃に降り出した雨は、勢いを緩めることなく降り注いでいた。
「烈火、帰りましょ」
授業が終わると同時に、折り畳み傘を手にしたステラが俺の席へとやってきた。
が、俺はその誘いに首を振る。
「すまん。 俺、これから図書室に行かなきゃならないんだ」
「図書室? また料理本?」
「いや、それはこの間読破しちゃった」
料理は俺の唯一といっても良い趣味。幸いにも図書室には料理本が沢山置いてあったので有効活用させてもらっていたのだ。
ちなみにこの料理本は魔物娘の花嫁修行用の物だったりする。料理本に読みふけっている最中に「花婿になりたいの?」って魔物娘の先輩にからかわれまくったのは良い思い出といって良いものかどうか。
「じゃあ図書室に何の用があるの?」
予想していた答えが返ってこなかったステラは首を傾げる。
俺は言って良い物か悪い物か暫し迷ってから、一か八か言ってみる事にした。
「いや、実は白河さんにお勧めの料理本を聞かれてさー」
ばきりと音を立てて、ステラが持っていた折り畳み傘を握り潰した。
一か八かでまーた地雷を踏んだらしい。どっかーん!
「わぉ」
「わぉ、じゃないわよ! 何、アンタ?あの蛇女の誘いなんかにホイホイと乗っちゃったわけ?」
「いや、君も蛇……」
ばらばらばら、と音を立てて、ステラの折り畳み傘が粉々になっていく。
「……ステラさん、折り畳み傘が粉砕されちゃったんですけど」
「アレー、モウヤスモノハダメネー」
カタコトで言われると生命の危機を感じる。ここから先の会話はデッド・オア・アライブ!
「えーっと……一緒に図書室に行く?」
「私、いま直ぐ帰りたい気分なの」
「でも傘壊れちゃったし。 家に電話をして、誰かに代わりを持ってきてもらったほうが」
「アンタの傘に入れば良いじゃない」
「狭いじゃん」
「気にしないわ」
「…………」
「……ダメ、かしら?」
「解った、そうしよう」
涙目で言われてしまっては仕方が無い。どうあっても姉妹のお願いを断れない俺ってシスコンの鑑?
とりあえず白河さんには携帯電話でメールを打っておこう。
(急用が出来たので図書室に行けなくなってしまいました。ごめんなさい。 この埋め合わせは必ずします、っと……)
「ほら、さっさと行くわよ。再放送のドラマに間に合わなくなるでしょ!」
「解った。 解ったから、尻尾で俺を抱えあげるのは止めてくれ」
何だか、異様に恥ずかしい……。
一方の白河さん。
「急用……? どうせご家族の方たちの事でしょうね……」
(彼が家族の事を何より大事にしているのは知っている。 でもその一部を私にも向けてくださっても良いでしょう!?)
「……でも、埋め合わせ、ですか」
(今回の事はあちらに非がある。 つまり少しぐらいの無茶は通ると言う事かしら……?)
「……これは、綿密な計画が必要なようですね」
ステラに抱えられつつ、昇降口に到着。下駄箱から靴を取り出していると、急に背中から抱きつかれた。
常々慣れしたんだ感触に、俺は笑顔で振り向く。
「やぁ、ミスト姉さん。今帰り?」
「……うん。 一緒に帰ろう?」
「帰る! という訳で姉さん、動けないから離れてちょーだい?」
「……私を抱っこして移動すれば良い?」
「名案だ」
姉さんを抱えてステラと合流する。
「何で姉さんを抱っこしてんのよ!?」
開口一番で怒られた。
「そんなに怒る事か?」
「この衆目を集める中で抱っこなんて恥ずかしくないの!?」
「姉さんの為なら羞恥心とか捨ててやろう」
「……弟は良い子だ」
「わぁい」
「…………」
姉さんのなでなでに喜んでいると、ステラの肩が震えはじめた。髪の毛の蛇たちもざわついている。
何が起こる。今度こそ死ぬのか?
「ええい、もう!」
「うわっ!?」
ステラが猛然と襲ってきた! ……と思ったら、俺の右腕にしがみついただけだった。
慣れしたんだ姉さんの感触と違うステラの柔らかさにちょっとドキドキ。
「ほ、ほら、さっさと帰るわよ!」
「ちょっと恥ずかしいんだけど」
「姉妹の為なら羞恥心を捨てられるんでしょ!? ほら、一緒の傘で帰るんだから、密着するのは当然だし!?」
「顔、真っ赤だけど大丈夫?」
「うっさい!」
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