「・・っ!!」
やられる。
体のバランスを崩しかけたとき俺はそう直感した。
「取ったぁ!!」
予想通りその声とともに勢い良く剣が振るわれる。
こちらが体勢を崩しているのでよけることは不可能と見てか、
読み取れるその軌跡は縦一線。
「ちぃ・・!」
悔しいが、その考えは当たっている。
この体勢からでは回避行動になど移れない。
防御ならば出来ると判断し、こちらも剣を横にしてぶつけるが、
今俺が相手取っているのはリザードマン。
積み重なった鍛錬の結果、力はムラ無く乗っているだろうし、
かつかなりの速さ。
これは、まともに受けるのは絶対に避けたい。
そう思って俺は思いきった行動に出る。
「はぁっ!」
剣がぶつかるその刹那、俺は剣を握る手から力を抜いた。
剣はあっけなく弾かれ地面を滑っていく。
それをみた相手のリザードマンは愉快そうに声を上げる。
「・・これで終わりにするか、続けるか・・フェン!」
まだだ、まだ終わってない。
リザードマン相手と言えど格闘戦がまだある、そう思い
拳を握りしめ懐に飛び込むが、
「甘い!」
飛び込んでいった体のちょうど首のところに、
剣が横一文字に置かれてしまった。
「!」
慌てて体を反対側に持っていこうとするが、
「勝負あり、だな。」
片腕を掴まれそう宣言されてしまった。
こちらは丸腰、相手は剣をいつでも振り下ろせる状況。
・・本当に勝負ありと言わざるを得ない。
「・・参った、俺の負けだ、リノ。」
そう言って俺は掴まれてない片方の手を振り降参の意を示す。
それを見て相手のリザードマン・・リノは力強く言った。
「では、約束通りアレをしてもらうぞ。」
所変わって俺の部屋。
邪魔なものを隅っこに押しやった、
お世辞にも片付いているとは言えないこの部屋で、
俺はリノにアレをさせられていた。
「ん〜・・ふーんふふーん・・♪」
リノは俺の膝に頭を乗せ気持ちよさそうに鼻歌なぞ歌っている。
俺はというと、じっと動かずに胡座をかいていた。
「ふふ・・やっぱりお前のコレは格別だなぁ。
以前エキドナにしてもらったことがあるがやはりこちらの方が良い。」
「・・そりゃあ良かったよ。」
もう分かっているだろうが、アレとは膝枕のことだ。
ことの発端は、練習試合の開始前ににリノが
「どうせやるのならば、景品があった方がやる気が出るんじゃないか?」
と言ったせいである。
俺としては正直どうでもよかったし、
景品など無くてもリノと試合が出来るだけで十分だったのだが
リノがその後再三にわたり同じようなことを言ってきたので
しょうがなくやった次第である。
それにしても、リノが膝枕を景品として言ってきたときは驚いた。
景品を欲しがったことを除けば、
いつも己を高めることだけを考えているような、そんな奴だったからだ。
てっきり俺は新しい籠手か、はたまた具足か、
まあそのあたりだと思っていたのだが、
じゃあ何をして欲しいんだよ、と訊いたときのリノの反応は
「そうだな、膝枕だ!」
とまあ元気の良いものであった。
そのぐらいならいつだって頼まれればするのに、と言うと
「分かってないなぁ、勝負の後だから良いんじゃないか!」
と返されてしまった。
考えてもその理由は分からなかったのだが・・
「んふふ・・ふ、ふふふ・・」
俺の膝に頭を横たえながら、
気持ち悪いとも表現できる笑い声を立てるリノを見ていると
そんなことはどうだって良いんだ今は重要なことじゃない、
そう思えてくるから不思議なものである。
「・・・・・・」
それにしても。
「ふ、ふふ・・くふ・・んふふふ・・」
その笑い声はどうにかならないものだろうか。
リノをあまり異性として見ず、戦士としてみていることが多い
俺が言うのもなんだが、女らしくない。
もっとこう、静かに寝息を立てていればそれらしくも見えるのだが・・
「・・ん?どぉした、フェン?私に膝枕をするのがイヤか・・?」
そう思っているのが顔に出ていたのか、
リノはこちらを見た途端に表情が暗くなった。
しかし、その暗くなった表情が俺にはとても魅力的に映った。
いつも溌剌としているリノの、しょげたような顔。
明るさの中に見えた可憐な暗さ。
「ぁ・・・・・・・」
俺は無意識に見惚れていた。
もちろん、自分ではそのことなどわかりもしない。
「お、おい、フェン?あの、イヤなら退くぞ?
だ、だからその、固まらないでくれ。」
分かったのは、俺の目の前のリノの顔が、
どんどん赤くなって行っているという事だけだ。
「あ、あの、フェン、そんなに見つめられると、
その、て、照れるというか何というか・・」
・・うん、照れた顔も可愛いな・・。
さっきはちょっと気持ち悪いとか女らしくないとか思ったけど、
こうなると意外に・・
「ふぇ、フェン、こら!なにをニヤケているんだ
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