「え、あの、お金じゃない、って」
突然の発言にガーレイが少し焦ったように反芻する。
ミツネお得意の胡散臭い言い回しに慣れていない反応としては至極当然の返し方だった。
表出するかしないかはともかく、相当の観察眼が無いと焦らない方がおかしいだろう。
「ふふ、そう、お金じゃない形」
が、こいつが一番好む反応でもあるな、と私は次の彼女の手を考える。
その最中、当の本人はそれをさらに鸚鵡返しした。
中身を告げないだろうとは思っていたにせよ予想通りの大筋に、思わず溜息が出てしまう。
ミツネの性格からして悪意はないのだろうが、された方はというと眉をしかめている。
まぁそうだろうな、いきなりの発言に彼女特有の胡散臭さも入っているのだから。
正直を言えば困ったような姿はもっと見ておきたかったものの。
「……で、何を頼みたいんだ、ミツネ?」
この煙巻き狐に見せてやる道理もないので助けを出す。
「あら流石、シェールちゃんは飲み込みが早いわ」
するとこいつは尻尾を揺らし言葉を区切る、内容は言わない辺りいつもながらの回りくどさだった。
意地でも自分からは教えないとでも言いたげだ。
語らうには面白い性格ではあるがこういう場面ではほとほと、まったく。
「、で……何が依頼だ?」
いい加減面倒になってきた私は、再び直球で訊く。
今度は半ば睨みつけるような形相もつける、おまけお得が大好きなこいつなら大喜びだろう。
つけられる大元どうこうという文句は受け付けないがな。
「んぁあんもぅそんなに怖い顔しないでって、何て事なくいつも通り頼みたいだけ、よ?」
果たしてそれは功を奏したらしく、体を抱くようにして震えた後ミツネはそのように白状する。
だが懲りていないのは媚びるようなポーズとわざとらしい困ったような声音が証明していた。
それを抜きにしても説明してみせたであり説明した、でないのがまったく……こいつは。
「っハァ……」
流石に付き合いきれなくなり、睨むことすらやめて見せつけるように息を吐く。
本題に入れと彼女に告げるのは、覚えてる限りこれが一番だった。
「……冗談、届けて欲しいものがあるだけよ、だからそれは流石にやめて、ね?」
「最初からそう言え」
この場でもとりあえずは効いたようで、ミツネは肩をすくめると尻尾をゆらゆらと揺らしてその先に掌を添える。
やっとかと思いながらも何をするか気になっていると、小さな封筒が彼女の手にぽとりと落ちた。
届けものとはあれだろうか?
見ればゴツゴツした物が入っているのが一目で分かる膨らみ、封筒に入れるのは似合わないその形は、どうやら石のようだ。
「それか?石か何かに見えるが」
なんとなく訊いてみて、直後、私にしてはやや衝動的な行動をからかわれると覚悟する。
ミツネは私だろうと容赦ないからだ。
「ん、大当ったり〜!」
が、予想に反して彼女は上機嫌に答えると。
「でーもーただの石ではありませんっ。色々いじった特注品でまぁ一見ただの石、されどその手の事が出来る人には色々お役立ちな一品っ!その分けっこーう手間だったけど、お友達からの願いだから頑張って作って……」
私達の座るテーブルに封筒を置くと、代わりとばかりに語り始めるのだった。
人をからかったりいじったりする時よりも遙かに楽しそうに輝いているその目はまるで子供のようだ。
「でー、お湯を暖かいまんまにしておけるようなのにはならないかって」
……あぁそうか、人に何かを説明、いや、話をする事が好きだったなミツネは。
当の本人の話を軽く聞き流しながらそう思いつつ、ちらとガーレイの方を私は見る。
さっきから黙っている、私より困っているからだろうと何となく思っていたからだ。
「はは……そ、そうなんですか」
うん、予想通りの苦笑い。
さもありなんというところだが、しかしながら苦笑いで済ます大人びて見える対応も好みだな?
「でね、その方が両方お客も来るって」
等と頭の片隅で考えていると、まだまだ止まらないミツネの声が入ってくる。
楽しんでいるのを止めるのは割と本気で申し訳ないが。
「……あぁミツネ、そこまでだ。楽しそうな所悪いが場所を教えてもらえるか?」
「ん……そう、そうよね、教えるわ」
そこはそれと割り切り、話の腰を折らせてもらう。
届け物というのなら受け取り主を教えてもらわねば、だ。
…………………………
そこからはまぁ、仕事の雰囲気になったミツネが真面目に色々と話してくれたおかげもあり。
「と言うことで。んじゃっ、お願いねー二人とも!」
「ああ」
「はい、分かりました!」
「頑張ってねー!」
見送られながらすっきりと出発できたの
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